SELECTION
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奨励賞
神谷憲吾
空白から余白へ -地域文化のデザインコードを利用した『閉じられた空白』の活用方法の提案-
卒業設計

地域社会では、コミュニティ内で世代ごとの分断が進んでいます。昔ながらの中心市街地にはお年寄りが残り、利便性を求めた若者は大型スーパーなどが進出する郊外に家を構えます。この両者の分断は、お互いが豊かに暮らしていくうえで解消するべきだと考えます。この設計案では、かつて栄え街を支えた商店街を、アクティビティを誘発する余白として再評価します。
敷地は山形県新庄市の北本町の商店街で、ユネスコ無形文化遺産の「新庄まつり」のルートでもある古い通りです。ここでは、街の「解体」ともいえる都市空間の特徴が見受けられます。例えば、山車を制作する場である山車小屋(やたいごや)は、年に一度住民が建てて、祭りが終わったら壊されます。また、棟が密に並ぶ商店街の中にある1棟が壊されると、そこにベンチなどを置いて利用されたり、歩道にかかるアーケードが残る場所では中庭のように活用されています。
これら「解体」の特徴を踏まえて、商店街の空き家や老朽化した建物の前面を減築し、山車小屋から抽出した部材のパターンを用いて、人々が集える場にします。部材は各地の資材置き場にストックしてあり、住民が用途に合わせて使いこなし、転用していきます。

現存する山車小屋から代表として4つを選び、その中から片流れ屋根、簡易的階段、挿入型足場、ローラー付き足場、目隠しカーテン、危険防止ネット、雨除けビニールシート、屋根による既存建物との一体化、出入口カーテン&レール、拡張作業スペースの10パターンを抽出しました。

「図書館分棟―健康教室」は、元ダンスホールの建物で健康教室を行います。隣接する建物では前面を減築し、図書・休憩スペースを設けて、休憩や情報収集などが行えるようにします。減築した部分に光が差し込み、屋外活動の場となります。ここに片流れ屋根を増設することで半屋外の場が現れます。
保育園と介護施設を含む複合施設の向かいでは、建物2階部分と前面をそれぞれ減築し、若い世代とお年寄りとの交流の場とします(図書館分棟―親子教室)。簡易的な階段によって2階を減築してできた屋上へアクセスすることができ、遊びや活動の場としたり、親子教室を行います。
老舗の呉服屋に挟まれた「歴史センター分棟―工芸教室」では、編み物や陶芸の教室を行います。完成した作品の展示や販売を減築による前面で行います。新庄市の伝統的な焼物である東山焼の教室が行われる際は、フレームを増設して、乾燥台を設置することもできます。
「歴史センター分棟―個展会場」は、建物の前面を減築し、片流れ屋根と仮設足場を増設し、外に活動の様子が表れる個展会場となります。訪れた人は仮設階段によって上階へと導かれます。

「歴史センター分棟―出張シアター」は、映像で街の歴史を伝えます。新庄市に映画館がないことから、出張映画館を誘致することも想定しています。既存の構造体にカーテンやビニールシートを架けることで、即席の集会所や会議室としても利用できます。

「歴史センター分棟―直産物販売所」は、実演販売や食事ができる場所として、拡張された作業スペースで調理・販売を行います。建物側面の出入口に屋根を掛けることで、隣の建物とつながります。新庄まつりの時には仮設足場を設置し、観覧スペースや休憩スペースとして利用します。

建築的な文化の遺伝子でもある山車小屋から抽出された要素を用い、老若男女が入り込める隙をつくります。このセルフビルドの技術は後世に引き継がれ、街のにぎわいや文化をつないでいきます。

講評
雨宮知彦

減築によってスケルトンを生み出しているのがとても巧みです。資材庫は、気軽に資材を取り出すことができるよう減築した場所にそれぞれ付属しているとか、さらに既存建物につくり方がわかるような機能を入れるなど、転用のためのベースが整えられているとさらに良かったと思います。

中村航

住民が用意された減築スペースや資材を使いこなしていくには、運営の仕組みやアイデアが必要です。高齢者など自分でDIYができない方を若者が手伝って支え合うという説明がありましたが、自身で住んでオーガナイズしていくということでおもしろいと思いました。

木島千嘉

減築のアイデアはおもしろいと思います。赤い鉄骨が共通したデザインコードになっていますが、現実的には鉄骨の露出は難しいと思います。そこを住民たちのDIYによって対応していくアイデアなども含んで提案されていると、よりリアリティのある案になったと思います。