SELECTION
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非常勤講師賞(木島千嘉・倉本剛)
榎本海月
大磯海街再考
卒業設計

日常、いつもの帰り道、家へ向かって歩いている時、急に視界が開け、先に水平線が広がる瞬間があります。その風景を見た時に、僕はこの街に帰ってきたことを実感します。このような海と街がある暮らしがあるのが僕の故郷・大磯です。
かつてこの場所は、東海道の8つ目の宿場町として栄えていました。東海道の表通りと相模湾の漁業の賑わいをその間の漁師町がつなぎ、支えていました。この漁師町のことを僕は「海街」と呼んでいます。しかし、現在の大磯では西湘バイパスが海と街を横切り、分断しているため、街から海の存在が感じられません。
そこで街と海を結び、賑わいでつなぐ「海街」を再生する提案です。

約3万平米の対象敷地は、既存の街路から伸びる5つの軸と、海側を走る高速道路により構成されています。平面計画は、既存の街路から軸線を伸ばし、それぞれの道に対して町内会のような自治のある街をつくっています。また、巨大な高速道路は海側にオフセットし、現在は埋立地になっている部分に、かつてのような海を還元しました。

現状の海側に5m以上の落差があり、さらに高速道路がありますが、高速道路を海側にオフセットしてできた隙間に徐々に海のレベルに降りていくように街をつくることで、海と街がシームレスにつながります。高速道路は街を守る防波システムにもなり、街からは高速道路越しに海の水平線が見えるようになっています。

水平線の向こうに広がる風景を描くように建築を設計していますが、実際にここに暮らす人々にとっては、釣りをしたり、他愛もない話をしたり、些細な日常と大磯らしさが表れる場所にしたいと考えました。高速道路を通過する人も、この海街の賑わいをひとつの風景として眺められるようになっています。

この提案では「海街」という言葉を用いましたが、この言葉は、実際に漁師がいたり漁村があるという意味ではなく、海の近くではないけれど海の香りや雰囲気を感じるというような意味で用いています。
この提案においても、例えば漁師の専門学生が小学校に行って授業をしたり、漁師町で買った魚が街の中で振る舞われたりすることで、海での活動が山側まで広がり、最終的に街全体が「海街」になっていくことを想定しています。

講評
富永大毅

近代を代表するようなインフラである高速道路を使いながら、近代以前の一次産業的な社会に戻し、衰退していく日本社会を前向きに捉えたフィクションになり得るので、経済や資源の循環も含めた新しい生態系がどう成立するかを考えていくとよいと思います。

三好礼益

高速道路という都市の骨格を操作する魅力的な提案だと思います。既存の街との関係や将来的な持続可能性、今後の増改築についても考慮されているとより良かったと思います。

下川太郎

高速道路が海と陸の関係を分断していることに問題意識を持ち、解決しようとしています。高速道路を動かして、単に境界線を移動させたように見えてしまうところは残念でしたが、車線をふたつに分けて段差を設け、そこから光を取り入れたり、高い方の道路下を住宅地として利用したり、高速道路というインフラを積極的に建築に取り込もうとしているのは評価できます。高速道路と建物とを融合させた景観をつくっていけるとさらに良かったと思います。