SELECTION
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奨励賞
山口大毅
都心部における地域共存型清掃工場の提案 -北清掃工場をケーススタディとして-
修士設計

高度成長期以降、ごみの処理を一手に担う清掃工場は欠かす事の出来ない建築です。NIMBY(Not In My Backyard)という認識を変え、環境調和を目指す未来の社会に向け、人々の生活に寄り添う様な清掃工場を提案します。
現在、東京23区には建替え中を含め21の清掃工場を所管しています。23区清掃一部事務組合では、工場の計画耐用年数を25~30年程度としており、多くの既存工場が建替え時期を迎えています。今後、稼働中の工場では、12 工場が25年を迎えるため、 計画的な施設整備を行っていくことが急務です。
清掃工場は迷惑施設として見られていましたが、近年は市民に開かれた施設へと転換してきています。それに伴い建築デザインにも変化が求められています。
また、日本では人口減少に伴うごみ総排出量の減少が予測できます。
将来における持続可能な清掃工場の社会的位置付けを考え直す必要があります。

現在、清掃工場の建て替え計画では既存を取り壊して新築がされており、保存や活用といった存続や継承は考慮されておらず、それ以前に存在した建物の歴史や系譜が断ち切られています。
計画にあたり、既往研究を参考に、1978年から2021年に稼働を開始している都心部にある清掃工場の計50工場を対象とし、都心部における清掃工場の外観意匠を「表層操作」、「形態操作」に大別し、その特徴を10項目に設定して分析を行いました。
「表層操作」としては外壁にライン状の装飾を取り入れた事例が、「形態操作」としてはセットバックし圧迫感を軽減した事例が多くありました。時代が下るにつれ、工場らしくない建築的特徴が見られるようになり、迷惑施設と称される清掃工場の悪いイメージを外観によって解決しようとする意図を読み取ることができます。

 

 

設計対象とした「北清掃工場」は、外観における表層操作が一切用いられていません。打放しのコンクリートで全体を構成し、工場らしい機械主義の美学を意匠的に体現することで、表層を装飾した他の事例と異なる清掃工場のイメージが示されています。この改修にあたっては、既存の設計者である建築家・石山修武が表現した風景のデザイン、箱型からの脱却、打放しコンクリートといった建築的特徴を評価し、保存・継承しました。
清掃工場には、耐震基準や排熱、機器メンテナンスに対応するため、普段目にしないような大空間や機器設備が覆う特殊な空間が含まれています。内部の配置計画においては、プラットフォーム、ゴミピット、 焼却炉を「主設備」、排ガスや電気、熱設備を「副設備」と定義しました。一般的に「主設備」の周囲に「副設備」が付随する構成がとられており、計画上、副設備の配置変更は可能です。既存の北清掃工場においても、北側に「主設備」、南側に「副設備」が集約されていますが、空間の設計可能性として、この自由な計画ができる副設備部分こそが清掃工場の保存改修を行う上で、有効であると考えます。
北清掃工場は住宅街の中央に位置し、住宅と工業、商業が混ざり合う結節点にあります。都内の工場のなかでも特に老朽化が進んでおり、最も早く建て替え計画が必要です。

プログラムとして、清掃工場との関連性、現存する公共施設の老朽化を踏まえ、地域全体と一体的に機能していく拠点となるよう、余熱をエネルギー還元して運用できる温浴スポーツ施設、生ゴミ堆肥を用いた菜園施設、地域の憩いの場としての区民センターを付加しています。
「主設備」部分については、プラント設備を更新し、既存躯体を利用して増築しました。既存の「副設備」部分は工場空間を利用しつつ転用し、温浴施設、菜園施設、区民センターなどの地域拠点施設を計画しています。
新しい「副設備」部分は、西側に増築しています。既存工場は大通りを挟んで、南側に清掃工場、北側に地域拠点施設が配され、両者は分断されていましたが、ここでは大通りで分断せず東側に清掃工場、西側に地域拠点施設を配置し直すことで、パッカー車の動線を整理して工場運営に支障が出ないようにしつつ、地域拠点施設のあり方を再考しています。

外壁の保存にあたっては、地震時などの外力による変形追従性能を向上させるため、保存外壁を水平切断し、切断部に弾性すべり支承を設けました。

空間構成としては、既存工場に、柱スパンから寸法を決定したS、M、L、XLという複数サイズのボリュームを挿入することで、巨大設備機器が入っていた大空間をヒューマンスケールに落とします。
地域拠点施設へのアプローチは、工場部門への出入口との間に緑地帯のバッファーを設け、分離しています。地域住民は広場を通ってエントランスに向かいます。エントランスから2・3階へ続く大階段はたまり場としても機能し、都心部に建つ清掃工場としての賑やかさを担保します。

1階の温浴施設では、工場排水を利用して還元した熱を用い、地域住民の健康を促進します。

 

 

 

2階のジムや多目的室からは、1階で活動する利用者の様子が見えます。工場部門に見学者動線を計画することで、プラント施設を日常的に感じられる空間として、地域住民の工場へ対する認識を変えていきます。

 

 

3階のメインエントランスを抜けると、大規模な機械設備が設置されていた大空間が広がります。4層吹抜けの空間ではワークショップなどを行い、制作作品を展示します。
また、工場部門3階の床レベル(2階屋上)の屋外広場には生ゴミ堆肥を用いた菜園施設があり、2階から階段でアクセスすることができます。XL サイズのボリュームが挿入された区民センターの図書ブースでは、2層吹抜けの空間に設置された本棚が上下階の移動を誘発します。

4階には大規模なプラント資設が入っていた場所があります。外壁の保存に伴い、既存ボリュームの吹抜け空間を残しており、新設したスラブと融合して、人々の視線が交わる空間が生まれています。

 

 

社会的背景の変化により、清掃工場には新たな役割が求められています。本研究を通じて、プラント設備がある「主設備」部分は現位置で更新、一部増築し、「副設備」部分は配置を変更して増築することで、柔軟な部分建替えが可能であることを示しました。さらに、異なるスケールの空間の付加、ボリューム操作といった設計手法によって、既存工場の一部を地域施設にコンバージョンし、清掃工場ならではの大空間を活かすことができました。

講評
佐藤光彦

清掃工場が25~30年ごとに建て替わるのであれば、今回提案された工場自体も今後建て替えられることを想定した設計になっているとより良いと思いました。

宇於﨑勝也

これからの時代において、使えるところは使いつつ継承を考えるというリアリティを評価したいと思います。

古澤大輔

躯体はそのまま活用し、設備を更新している点で、「スケルトン・インフィル」の考え方を取り入れているところがおもしろいと思いました。「主設備」と「副設備」をどのように線引きしたか、もう少し詳しいプレゼンテーションがあると良かったと思います。

山﨑誠子

清掃工場の研究・設計に携わっている立場から見ても、細かいところまで設計していると感じました。外構のデザインについては違うかたちがあり得ると思います。