SELECTION
  • 1 / 4
  • 2 / 4
  • 3 / 4
  • 4 / 4

卒業設計選奨
児山菜月
わたしの範囲 -境界を移動した時、私は何者へと変わるのだろうか-
卒業設計

敷地は私の地元・福生市にある米軍横田基地の第5ゲート、および現在駐車場であるゲート前面の土地です。現在、米軍関係者と周辺の住人の関わりは決して十分とは言えません。メディアにおいても基地の方々は「軍関係者」と一括りに扱われてしまいます。しかしそのなかには、周辺住民と同じ学校に通っていたり、同じ趣味を持っている多様な人々が存在します。
私は、この大きな心理的隔たりを解消するため、基地との物理的境界を引き直し、両者の関係性を変える建築を設計しました。
横田基地の第5ゲートは、観光客に開かれているベイサイドストリートと、夜の街として発展してきた赤線跡という両極端な地域に面しており、それらの場所性に留意しながら、24の空間モデルを配置しました。

これまで柵や塀など線的であった境界を、空間化する建築構成です。身分証明のIDを通すゲートのような要素が含まれるボリュームには、その印象をやわらげるため、人々の日常的な交流が生まれるようなカルチャースクールなどのボリュームを隣接させました。それぞれのボリュームの交点に配置された空間を通過することで、「わたし」の範囲を変え、ナショナリティに捉われない空間を目指しました。

軍関係者の家族はうまく地域に馴染めていない人もいるので、基地側には大きな開口や軒下空間などの、人々が佇めるような空間を配置しました。一方で、街側から基地に向かう動線には、基地への興味につなげるために、期待と不安が持てるような、あえて見通しが効かない細い空間を設計しました。

境界は時には争いを起こす原因にもなりますが、色々な文化が発生するきっかけにもなります。現在、駐車場であるこの敷地は、日本とアメリカの空間を強く分断していて、ナショナリティによる大きな境界が可視化されているような状態になっています。私は、そこに趣味や日常生活の中で生まれる小さな境界を散りばめることで、大きな境界を相対化し、人々が個人として関われる空間を設計しました。

講評
木島千嘉

日本には、石を置くだけでその向こうに行ってはいけないことを示す「結界」という弱い境界のつくり方があります。境界には門で強く閉ざすものから、結界のようなものまで、そのつくり方は多様に考えられます。この設計においても、その強さが空間的にわかるとより良いものになると思いました。

下川太郎

境界を曖昧にしたり消したりするわけではなく、多くの空間を散りばめることで、個々人によって感じ方が違う境界という体験を複層的に設計したというのは好印象でした。ただ、それらのストーリーがどのように建築形態に落とし込まれたのかという説得力がもう少し必要だと感じました。

高橋堅

例えばかつての築地市場の「場内」と「場外」のように、実際の境界はあっても常に内部の営みが外部に染み出てしまうものなのだと思います。特別なことをせずとも、現状の状態をよりよく観察し、そこから染み出ているカルチャーを囲い取るような領域や建築を考えることで、基地がその外部に図らずとも漂わせてしまう「ノリ」や「ニオイ」を再発見・顕在化できるような建築になるのではないでしょうか。