SELECTION

駿優賞
菅野尚人・小町弘汰・荒井美咲|卒業論文
夜間景観の構成要素による選好空間の分析に関する研究 -シミュレーションにもとづく景観評価手法の検討-
卒業・修士論文

1.研究の背景と目的

都市の景観は、時代とともに変わりつつある。本研究は、夜の時間帯において、人々が街路空間をより利用しやすくなるような街路景観のあり方について着目する。特に街路を通行のみを目的とするのではなく、滞在意欲を促すような景観にするには、利用者目線の感覚や意見を反映させることが重要であると考えられる。そのために、経済的合理性だけではなく行動主体である人間の心理的な要因を取り入れた考えの行動経済学の行動選択の考え方が景観評価でも活かせるのではないかと考えた。
本研究では、夜間の街路景観の構成要素を用いて「景観印象評価の予測」を可能にする。さらに、景観評価において行動経済学の「理由に基づく選択理論」を用いて、人の行動を変えるという観点から景観を評価することができるのかを検討する。以上により、ガイドラインに沿った景観整備による利用者の行動の変化、事業者のメリットを提示し、三者協働の関係性を明示することを目的とする。

 

2.研究の方法

以下の手順で研究を進めた。

①数量化による夜間景観に対する印象の予測

②印象カテゴリの違いによる行動変化の検証

 

3.調査結果
今回の実験を通して、夜間の屋外活動において「繁華性」「秩序性」「快適性」の中では、印象カテゴリが「快適性」に分類される街路空間が、設定価格が高くともそこに感性価値が見出され、人に選択されやすいことが分かった。よって、街路空間に含まれる景観構成要素がどの程度影響を及ぼすのかを明確にすることによって、より人に選ばれるような街路空間への改善の指針とすることが可能になると考える。したがって、人に選ばれる「理由」となる景観の印象カテゴリを変えることにより、現状よりも「選択」されやすい街路空間へと改善することができると言える。例えば、「繁華性」に分類する画像も、街路空間における構成要素を変更することで、「秩序性」や「快適性」にシフトすることが可能である。その際、街路樹を低く、広告物を少なく、緑演出を無くすことによって、「秩序性」に分類することができる。また、印象カテゴリの変更に必要な構成要素を全て変えるのではなく、広告物のような影響力の大きい要素ひとつを変えるだけでも、街路空間の印象カテゴリの変化を予測できることが明らかになった。また、「快適性」に変更するには、広告物を減らすだけではなく、色温度や街路灯、街路樹などより多くの景観構成要素に配慮し、景観整備を行う必要がある。このように、現状よりも人々に滞在してもらえるような夜間景観に変えるため、既存の街路空間の持つ構成要素を整備・改善することができると考える。したがって、本研究によって夜間におけるオープンカフェや飲食など、屋外での滞在を前提とした、より多く「選択」される街路空間を創出するための構成要素の組み合わせの予測が可能であると言える。

 

4.まとめ
本研究では、夜間においてより人々に利用してもらえるような街路空間にするための、構成要素の整備・改善方法が分かった。また人々により多く「選択」される街路空間を創出するための、構成要素の適切な整備の有用性を明らかにし、これまで不透明であったガイドラインに従った夜間景観整備の必要性とメリットを示すことができたと考える。これに加え、未だ詳細な夜間景観ガイドラインが定められていない街路空間では、人々の利用を促すため、目指す空間の印象カテゴリから景観構成要素を導き出すことで、効率のよい景観整備の方針を定めることが可能である。このように、ガイドラインから街路空間の印象カテゴリ、景観構成要素の改善や、構成要素から印象カテゴリ、ガイドラインの補完につなげるサイクルを創出することで、良好な景観形成を行い、夜間における街路空間を取り巻く行政と利用者、事業者にメリットを与えることができると考えられる。

参考文献
1)東京都:良好な夜間景観形成のための建築計画の手引き、2019.8
2)藤居良夫・酒井裕一:街路景観評価に対する因果関係の分析、 都市計画論文集、2002年37巻、pp.1045-1050
3)国土交通省:景観形成の経済的価値分析に関する検討報告書、2007.8