SELECTION
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相川文成・藤田泰佑・保坂友哉
ガワとアンコから読み解く新内神田モデル -再開発に対する内側街区からの設計-
Super Jury

内神田は神田駅の西側に位置しています。駅前や西口商店街には多くの商店が並び、他に中規模・大規模のオフィスが存在しています。既存コミュニティとして、神田公園地区連合町会があります。また、新規住民への町会への架け橋として、街に長く住む人への思いや知識をシェアするための『神田住みこなしガイドブック』を作成しています。
神田は江戸期の町割りを継承した街区を有しており、明暦の大火以降、大通りと大通りをつなぐ細い道路や街区を横断する路地が多く計画され、今も残されています。路地に点在するお店は、住人の隠れ家的な場所であり、帰り道にふらっと立ち寄る拠り所のような存在です。現在、内神田の路地沿いの建築は老朽化してきており、このままでは大通りの建築と一体となった大規模な再開発により消滅してしまう可能性があります。
私たちは、路地空間がコミュニティを守ってきた街のアイデンティティであると考え、内側街区からの再開発を提案します。

食堂、貸しスペース、シェアキッチン、ランドリー、住居の5つのプログラムを入れました。食堂は、その他プログラムの管理を行うとともにコミュニティの中心的な役割を担います。住居は、コミュニティの持続のため新規住人の参入を狙っています。
歴史的には内神田は中山道に近づくほどパブリック性が高い空間がありました。それは現代的には西口商店街に当たると考えます。よって、商店街から一歩入った十字路の路地に面した3つの土地を今回の計画敷地としました。
北西の敷地には食堂を配置し、街のダイニングとなるようにカフェの営業を想定しています。北東、南西の敷地には、地域に開かれたパブリックな空間としてシェアキッチンやランドリーを配置しています。食堂に隣接した貸しスペースは、ギャラリー利用や出張店舗など自由に使える空間です。
十字路に面していない建物には住宅を計画し、1階に水回り、2階・3階に居室を配置し、重層長屋のような形式を採用しています。1階では、これらのプログラムが既存路地に隣接し、内側街区が一体となった神田らしい交流ができる場として提案しています。
住居エリアの2階・3階は、3つの敷地に対してL字型の住居空間を考えています。路地の共有する空間を立体的に構成するため、ヴォイド空間に対してテラスやエントランスを向けています。

1階平面

2階平面

3階平面

食堂やシェアキッチンなどによって、路地から住民以外の人も入ってこられるようなセミパブリックな空間になります。
運営スキームは、食堂のシェフが低層部の維持管理を行うとともに、コミュニティの中心的な役割を担います。また設計者が運営に参加し、地域イベントの運用方法を提案していきます。
「生きられた空間」とは、ビル裏となってしまったかつての路地を表として再生するのではなく、内神田の表と裏の役割を考え、裏で継承されてきた地域コミュニティ、文化などの街区形式を現代的に捉え直し、生き返らせることと考えて設計しました。

事業スキーム

講評
勝矢武之

かつてこの地域には職住一体の生きられた街がありましたが、それはもう戻らない。そこで、かつての要素を縦積みにして取り戻すという計画には共感を覚えます。1階は賑わいのための要素を設定していて、2階には路地のようなものを設定して街を再生するという考え方はおもしろいと思います。
ただ、全体の印象としては、郊外の住宅地にある職住一体型施設をここに移植したようになってしまっているのがやや残念ですね。この場所のリアリティのなかでの形を考えられると思いました。

高橋堅

馬喰横山では現在再開発によりマンションが多く建設されています。元々は問屋街なので、1階には非居住施設を入れて商店街という街並みに寄与しなさい、というような協定があります。ただ、あまりうまくいっている印象はありません。この提案は、路地を通してお向かいさんのような関係を残す点で、街の性格をうまく残せるかもしれません。オフィスビルやマンションでも道路に面する部分を街並みとして一部残したり、高層ビルであってもヒューマンスケールを持った3階程度までをこのような計画にするという案でもおもしろかったのではないかと思います。

木内俊克

低層の開発をするリアリティとして、例えば、大通り沿いに人の流れが生み出されて利益が波及するというようなストーリーで、容積緩和と共に条例を考えてみるなどもありえたと思います。人の小さなつながりだけではなく、容積が求められている現状と向き合うプログラムと設計がされると良かったと思います。