SELECTION
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非常勤講師賞(井川博英・内部美玲・廣部剛司賞)
高田怜奈
漂流 -東京に浮かぶゴミの埋立地における漂流のための植物園、記憶を辿るワイナリー-
卒業設計

現代社会は、大衆操作、消費主義、生活の商品化、監視・管理の傾向が強くなっています。人々は、ますます受動的になり、主体性を失っていっているように思えます。これらの問題には、1950-60年代にシチュアシオニストやビート・ジェネレーションがすでに警鐘を鳴らしていました。
シチュアシオニストは「漂流」「心理地理学」「転用」などの手法を用いて、消費社会への批判を行いました。また、ビート・ジェネレーションは、人間らしさや自由を求め、「性の解放と自由恋愛」「ドラッグの使用」「ジャズ」などのキーワードと共に語られます。
本設計では、それらのさらに源流にあるダダイズム、シュルレアリスムの手法や理念もヒントに設計を行いました。

私は東京湾のゴミで海を埋め立てた夢の島を消費社会の象徴と捉え、若洲海浜公園に隣接するゴミの埋め立てによってつくられた土地を敷地にしました。周辺には、娯楽施設が集まるお台場、廃棄物の最終処分場となっている中央防波堤、高度経済成長期の廃棄物を埋め立てた夢の島があり、それらが見渡せます。
プログラムとしては、地上に「客体と出会う薬用植物園」、地下は「記憶を辿るワイナリーと夢の島記念館」です。

断面

地上階は、展望台以外は主に屋外空間で、車やバイクで漂流する道路階と、徒歩で漂流する歩道階に分かれています。立体植物園には上階へ行けない階段など、無意味化された物体が散りばめられています。半地下には地面階があり、水生植物エリアや地階への入口があります。
地階には、夢の島記念館、胎内回帰の間、そしてワイナリーとワインバーがあります。空間は、東京の既存要素をダダイズムの破壊で無意味化・客体化させ、その断片をシュルレアリスム的な創造の手法(デペイズマン)によって再構築しました。具体的には、工業製品が廃棄物となるように分解し、それを再構築することで、無意味から意味を創造しています。
断絶された都市を立体化し、客体との出会いを誘発させます。ワイヤーでスラブや壁を吊っています。大地は土とゴミをレイヤー状に交互に埋め立て、ゴミが分解され沈下した際に地表面がデコボコになるようにしました。

平面

この建築の目的は、大衆操作や消費社会から脱し、人間の意識や価値観、感性そのものに変革が必要だと伝えることです。地上は、自由に漂流することで自らの感情と向き合い、主体性を取り戻す場所です。地下は、東京のゴミの歴史を知り、ワインを味わうことで、消費主義の記憶、自己の記憶と向き合う場所となっています。
現在の夢の島は、私たちが知らぬ間に消費社会を信じきり、監視・管理されていることから目を背けさせていると思います。個々の人々は、消費社会や大衆操作を目の当たりにすることで危機感を抱きます。この建築を漂流することで、自己と向き合い、主体性を獲得するきっかけになることを期待しています。

講評
古澤大輔

多様な空間があることはわかりますが、高田さんが独自にデザインされたこの造形の生成原理が、他者にも理解できるようなものだと良かったと思います。

馬場兼伸

ドローイングがとても魅力的でした。建築の産業廃棄物はとても深刻な社会問題なので、実際の廃棄物を使用したり、建設現場から出る廃棄物や解体された施設の部分などをつぎはぎしながら設計するというのもありえたのではないでしょうか。建築もモノも人間と同じ漂流物と捉えることで、より生き生きとした偶発性を取り込むことができたかもしれません。