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桜建賞
松本海空|卒業論文
熊本地震後の住宅地にみる自律的な復興の姿 -熊本市東区秋津校区第1町内会を対象として-
卒業・修士論文

1.背景と目的

2016年熊本地震(4月14日及び16日)後、避難所への避難者は最大で183,882名1)、応急仮設住宅等への入居者は最大で47,141名2)に達した。こうした公的な住宅供給は災害時において重要であるが、そこに頼り切らず、自身や地域が持つ資源を活用しながら自律的に復興を進めるケースも見られる3)。本研究では,2016年熊本地震で被害を受けた住宅地を対象に、各被災者がどのように住まいを確保してきたのか、また、地域の特徴や資源をどのように活用したのかについて分析することで、公的な住宅供給に頼り切らない自律的な復興の姿を明らかにすることを目的とする。

 

2.調査概要

調査対象地である熊本市東区の最南東部に位置する秋津校区第1町内会は、(元)農家を中心とした世帯が多く居住する、強いコミュニティを持った地域であり、震災前の世帯数は624世帯(町内会調べ)である。自宅が全壊判定となった60歳以上の11世帯(町内会役員により斡旋)に対し、各世帯の復興のプロセスや世帯構成、被災前後の敷地内の建物機能や住宅の間取りの変化等についてインタビュー調査を行った。

 

3.調査結果

仮住まいで使われた住宅資源として、車中泊、親族宅、自己・知人所有物件や土地の活用、避難所、民間賃貸物件が挙げられる。震災から24時間までは車中泊が5事例、親族宅が4事例、自宅に留まったのが2事例であった。その後、みなし仮設や、自己・知人所有物件、土地を活用しながら住まいを確保していた。この地域の特質的な事例として、知人が所有する賃貸物件にみなし仮設として入居する事例や、自己所有の土地にユニットハウスをリースする事例、自己所有賃貸での仮住まいの事例などが挙げられる。また、高齢者と同居していた6事例のうち5事例は、被災後に身動きの取りにくさ等を理由に有料老人ホームや病院、親族宅に一時的に高齢者を預けていた。

 

調査対象世帯の被災から自宅再建までのプロセス

また、従前従後の建物機能を比較すると、従前は母屋に加え、農業用倉庫などを所有する世帯が11世帯中7世帯であったが、従後は5世帯に減少しており、うち2世帯は従前から既存しており3世帯は建替えている。従前は所有していた2世帯では、修繕の支援金において対象者要件を満たさないことから解体のみで断念した事例も見られた。母屋や農業用倉庫などを再建する際は、11世帯中9世帯で元と同じ配置にしている。一方、配置が変更となった世帯は、損壊した自宅(全壊)に住み続けながら同敷地内の角に再建した事例と、従前近くに住んでいた息子世帯が新築するため、元の自宅があった広い敷地を譲った事例である。

再建後の住宅は、平屋で面積が小さくなる傾向があった。老後のことを考え2階に上がらなくなるということや、耐震性への意識が影響していた。また、11世帯中8世帯で、手入れが面倒なことや、椅子やベッドが主流となったため和室が減少傾向にあることが明らかとなった。畳の部屋を設けた世帯では、仏壇の部屋が必要であることなどが理由とされていた。 経済的にも敷地的にも比較的余裕のある世帯でも、再建後の住宅はコンパクトにしていたことが明らかとなった。

 

4.まとめ

本研究では、自律的な復興の姿として、特に知人の賃貸物件にみなし仮設として入居する事例や、自己所有の土地にユニットハウスをリースし補助金を受ける事例、また、同居の高齢者を災害後一時的に施設等に預けることで身動きを取りやすくし、仮住まい先の選択肢を広げていた事例が明らかとなった。また、被災前後の敷地内の変化から、農業用倉庫などの修繕の支援金において対象者要件を満たさないため、解体のみで断念していた事例が明らかとなった。自身や親族、地域住民が持つ資源を使いながら、臨機応変に公的な支援や地域の福祉サービス等と連携させることで自律的な復興が可能となっていたと言える。

参考文献
1)熊本県:熊本地震等に係る被害状況について【第309報】(令和3年1月13日13:30現在)
2)内閣府:平成28年(2016年)熊本県熊本地方を震源とする地震に係る被害状況等について(平成31年4月12日現在)
3)稲葉滉星・近藤民代・柄谷友香:平成28年熊本地震における自力仮設建築物の特徴と支援制度に関する研究、神戸大学都市安全研究センター研究報告、2019年22巻、pp.225-234