SELECTION
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非常勤講師賞(勝矢武之 ・富永大毅賞)
稲村浩成
鏡面建築 -建築的豊かさの研究及びその検証-
卒業設計

建築における豊かさの根拠を探求したいと考えました。私が豊かだと思う建築は、「開放感・閉塞感」「連続・切断」といった対立する印象が同時に存在するものだと気付きました。多くの作品の読み解いた結果、頻出する11の対立項を発見しました。それらを統合していき、4つの対立項「内部・外部」「重さ・軽さ」「土着・均質」「作品性・社会性」を導き出しました。建築の豊かさとは、これらの対立項が拮抗した状態だと定義し、設計手法に取り入れます。
私は、設計とは、複数案から良い案を選ぶことを繰り返し、線形的に発展していくものだと考えていましたが、対立項を考えるということは、作品内で対比的な表現を併置していくような、面的に広がりを持っています。何かを表現したい時、その逆の対立項を同時に取り入れる手法です。

敷地は、浅草の仲見世商店街からアプローチできる、四方を雑居ビルに囲まれた旗竿地です。ここに地上4階建て、延床628平米のホテルを設計します。
敷地境界ギリギリに建てたボックスを、隣地の建物と高さを揃えたヴォイドでくり抜いたボリュームが基本形になります。
次に、概念図という1枚のドローイングを描きました。建築ボリュームは与条件などの他律的な要素から決まっており、対立する自律的な要素として、私が感覚的に導いた敷地の中心点から構造フレームを設定しました。制作したコンセプト模型では、ガラスを挟んで上に黒い模型を、下に白い模型をつくることで対立する世界を表現しています。
そうしてできた建築は、どの階においても中央に自律した柱が並び、他律的につくられたヴォイドがそれと無関係に併置されています。隣接する建物に合わせたヴォイドの内部は、色々な視線の抜けができるように設計しました。

卒業設計は仮想のプロジェクトですが、可能な限りリアルに近づけるため、実施図面の作成に挑戦しました。細部のマテリアルまで設定した合計で30枚超の実施図は、フィクションであった私の卒業設計を対立するリアルな世界に踏み込ませてくれ、より自分がつくりたい世界を豊かに表現することができたと思っています。

1階平面

2階平面

玄関平面詳細

外観は現代的にまとめながらも、伝統的なモチーフである行灯をイメージして設計しています。この建築は、ライトアップされる雷門や浅草寺に呼応して浅草の街に新しい風景をつくり出します。

講評
高橋堅

自律としての柱、他律としてのヴォイドという構成は理解できましたが、壁の開口の開け方などは若干恣意的に見え、自律・他律のどちらに属するのかわかりづらかったです。設定したルールをより徹底させた方が、対立項によるコントラストがより明確になったと思います。

廣部剛司

<建築>に近づくための手段がほしくて足掻いているように見えました。他律的ルールでつくられたヴォイドは、実は周りの建物が建て替わればその関係性が失われていくものであり、ある種の刹那すら感じます。驚くほどの分量の実施設計図を描いているのは、バーチャルな存在としての卒業設計をいかにリアルに近づけるか、という叫びのように感じました。