SELECTION
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勝矢武之賞
長谷川侑香
LOOP
Super Jury

子どもの居心地が良く、楽しい空間の幼稚園を考えました。豊かな体験をしながら立体的に回遊できる「∞型」の幼稚園を提案します。
敷地は羽根木公園の一画で、この園を公園内のひとつの大きな遊具と捉え、子どもたちの能動的な行動を引き出す遊びや学びの場をつくろうと考えました。大地が隆起し屋根になり、屋根は大地の一部となり、立体的な回遊ができます。

園児の目線から紹介します。階段は踏面の幅がランダムで、動線でありながら座ったり遊んだりできます。自然あふれる園庭へつながるつり橋があったり、園庭越しに保育室内の様子を見ることができます。さらに進むと、室内への出入口や、園庭につながる滑り台があります。そのまま屋根の上を進むと、みんなで並んで座ることができる大階段があり、円形の部分はステージとして使うことができます。屋根から滑り台で降り、また何度も回遊することもできますし、各園庭への動線も開かれています。屋根の上を巡るだけで、友達の様子が見えたり、好奇心を駆り立て、地域との交流を生み出します。

1階平面

断面・立面

内部は、東側に事務室や子育て支援施設などの諸室、西側に保育室や遊戯室など子どもたちの教室があります。事務棟と保育室、遊戯室は離れていますが、事務室からは視界を遮ることなく、保育室や園庭の様子が見えて、子どもたちを守ることができます。また、保育室からは西側と中央の園庭に出ることができ、テラスと室内が一体化して開放感があります。子育て支援スペース前のテラスと園庭は、親子が遊べる場となっています。
保育棟は、学年ごとに分かれた3つの保育室と、その上を横断する階段状の2階で構成し、屋上に出ることもできます。広いところや狭いところ、高いところや低いところがあり、それぞれが自分の居場所を見つけられます。
∞型平面によって、敷地には様々な形の園庭が生まれます。北側は住宅と隣接しているため、敷地を囲む木々を高くして、自然あふれる園庭をつくりました。保育室に隣接する西側と中央の園庭は、子どもたちが走り回ったり、ボール遊びをしたり、自由に活動できる園庭です。階段の下は、園庭同士をつなぐ動線にもなります。

子どもたちは、身の回りの環境や他者の行動に興味を持ち、遊びながら成長していきます。だからこそ建物としての箱づくりではなく、成長の場となる空間づくりを試みました。大地が屋根となり、屋根が大地となるひとつの大きな遊具としての園舎をつくり、子どもたちの能動的な遊びや学びの場を提案します。

講評
木内俊克

大きな園庭を行事などができる場所にして、そこに中くらいのスケールの場所と小さなスケールの場所とを関係させるとか、より積極的にスケールを操作していくとさらに良くなっていくと思いました。ハイサイドライトがあって、下を覗けるようにしているところなども効果としてはおもしろいと思いますが、その部分を抑制的に扱って、屋根に大きなスペースをつくるなどの検討もあり得たかなと思いました。
子どもと曲線の造形を結びつける人は多いと思いますが、それが本当にこの敷地に合っているかも疑う必要があります。例えば、敷地の形に合わせて西側に寄せて、北東側を開けるなどの抑揚によって平面形も変わってくるかもしれません。すべてが曲線ではなく、機能的な意味で整然としたところがあった方が良かったかもしれません。

勝矢武之

楽しそうで、また、うまく人々の動きを生み出す多様な場があり、完成度が高いと感じました。平面の形がうまく地面と設置をしていて、広くなっている屋上にトップライトを提案していたり、丁寧に設計されています。気になったのは平面図中央に図示されている階段で、せっかくの中庭をスポイルしている気がしました。

高橋堅

かつて、ハーバード大学で子どものための遊具を設計するという課題があり、学生はみんな小難しいことを提案をするのですが、子どもたちに実際に遊んでもらったところ、まったく想定通りにはならなかったそうです。この実験は強烈な批評であり、とてもおもしろいと思っています。子どもたちが興味を持つ、しかし作為的ではない居場所をつくるということはとても難しく、大きなテーマになると思います。ロンドン動物園の「ペンギンプール」(設計:バーソルド・リュベトキン、1934)を思い出しました。あれは、ペンギンが実際に遊んでいましたが、この空間で子どもたちが本当に遊ぶのか、気になりますね。