SELECTION
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大塚友貴
見つつ、見られつつ、隠しつつ。
Super Jury

谷中は、昔ながらの街並みが残る場所です。私は和風住宅を設計しました。現代の住宅は、目的によって間取りを決めて、プライバシーのために部屋を明確に区切る構成になっていますが、かつての日本家屋は具体的な部屋名を定めず、目的に合わせて自由に間取りを操作する可変性を持っていました。この間取りの操作をコンセプトとして、街とのつながりを土間空間で、家族同士のつながりを屋根構造によって構成しました。

敷地周辺には、商店街や大きな公園、区民館、小学校などがあり、家族構成は核家族(夫婦+子どもふたり)を想定しました。外部とつながる土間がリビングを囲み、さらにその周りに生活空間を配置することで、住人は、土間を介して生活します。生活空間、屋内土間、屋外土間、そして縁側と、段階的に内外をつなぎます。縁側は、グラウンドレベルに合わせることで、住宅全体の高さを下げています。東側の開口からは、隣接する岡倉天心記念公園の木々との連続性を感じることができます。木材を活用し、この谷中の街に溶け込むようにしました。様々な人々が行き交う谷中とのコミュニティ、家族内の関係や気分、天候などに合わせて自由に居場所を選択できます。

1階平面

屋根の構造である梁の高さをアイレベルまで下げ、間仕切りとして扱っています。手すりや物干しとして活用したり、短時間のプライベート空間をつくるきっかけとなります。低い梁によって、壁のない柔軟な間取りになっています。夫婦と子どもの寝室を対角線状に配置し、適度にプライバシーを守ります。2階は最低限の部屋があるのみで、吹抜けによって1階とのつながりを強めています。
単に開放的にするのではなく、街に対して、また内部でも「見つつ、見られつつ、隠しつつ」を実現します。

2階平面

「HAGISO」やその近くの「hanare」は、建物ひとつで完結するのではなく、街全体を大きなホテルに見立て、地域と一体となっています。将来、この住宅もその一部として活用され、目的に合わせた間取りに変えることができるよう計画しました。

講評
木内俊克

中心に土間を配置して建物を9等分するという平面が、特に理由なく決まっているように見えます。外部とのつながりを考えるならば、平面的にも街に合わせてグリッドの寸法配分を変えるなど、アレンジの可能性もあったのではないでしょうか。

勝矢武之

土間が一段下がっていて家の内部空間になってしまっているのが、「街に溶け込む」というストーリーと合わないように感じました。本来の土間は、都市の外部性を引き込む感覚がありますが、ここではむしろリビングの周りにある普通の居室になってしまっています。
また、2階の木造架構と1階の土間の対比が弱いような気がします。吹抜けによって、1階から架構が見えているだけで、相互に影響を与える効果が出ていません。箱と躯体という対比によってつくった方が良かったのではないでしょうか。
ただ、住宅は必ずしもコンセプチュアルにつくらなければいけないものではないので、一概に否定するものではないとも思います。2階の架構は、現代の住宅の小さな木のスケールと、大きな梁による物質感がある民家の両方の効果が混じっているように思えました。

高橋堅

架構が人の振る舞いに影響を及ぼしていくということが一番やりたかったのではないでしょうか。この架構自体のスケールを操作することで、架構と人の居場所との連動・展開があればもっとおもしろいものになりそうです。