SELECTION
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湯川智咲
水辺の再編
Super Jury

歴史を300年ほど遡ると、敷地に接する旧山手通りに沿って三田用水路があり、水辺のコミュニティがありました。水路が多かった街に、徐々に道路や鉄道などのインフラが整備され、三田用水路は役割を終えました。私は、かつての代官山は「川」という共通の風景によって活動が活性化していたと思いました。例えば、川と橋で起こるアクティビティとして、通す、眺める、つなぐ、話す、賑わう、守るなどの動詞が連想できます。
この計画は、敷地の中央を通る幅約5mの仮想の川から始まります。道路に面するパブリック性の高い北棟には公共空間を、景観と日当たりの良い南棟には住居を配置しました。また、4階から上の平面の角度を45度振ることで、第一種住居地域として10mのスカイラインで構成された街並みに対応します。

構造は南棟のスパンを8,040mm、北棟は4,020mmとすることで梁を細くし天井高を高くしました。また、二棟をつなぐ橋を架け、商業と住居の接点とし、行き交う人々が風景をつくります。
北棟は全面ガラスで外へ活動を見せ、4階・5階は北向きをガラスにすることで、年中カーテンがいらず、都市を眺めながら活動できます。
南棟は、生活に対応する窓をひとつひとつ設け、二棟の違いをつくりました。

4つの分棟の商業スペースは、ヒルサイドテラスでも用いられている隅入りを引用し、視線を遮らず、流動性を持たせます。

1階平面

2階は北棟を事務所、南棟を住戸とし、合わせて職住が行き交うSOHOのフロアです。橋は仕事と生活のオンオフを切り替える存在となります。
3階は北棟をスタジオ、南棟をシェアハウスとし、個人の趣味やスタジオ内の活動が橋にも表れ、橋は賑わう場所となります。
4階・5階は住宅で、ワークスペース、シェアキッチン、ランドリーと生活にプラスアルファの用途を配置します。
2層をつなぐ階段橋は、8の字型の回遊性をつくり、時に領域を拡張します。

南棟では4階・5階の角度を振ることで、住戸は全室採光となり、西向きの窓から富士山が見え、かつてこの地で栄えた富士信仰を想起させます。玄関前のスペースは斜めに入ることで、北棟との目線をずらしています。住民のコミュニティはアクセスの動きと生活の向きで規定されるという理論をもとに、表出によって少しプライベートな公共空間となります。
室内は、槇文彦さんの言う「奥性」をS字の動線と捉え、視線や採光が変わることで空間の違いをつくりました。ハレの空間は外にいる人によって定義され、ケの空間は奥に進むにつれて視野が広がります。

断面・立面

上下4戸で共有する光庭は、窓をずらすことで互いは見えず、風や光を取り込みます。街で共有する川空間、住民で共有する橋、2戸の住民で共有する共用部、4戸で共有する光庭と、スケールの異なる共用空間が生活のなかで自然なつながりをつくります。
1階では、雨水を利用した水が植物を育て、季節によって量が変わる緑がコンクリートの表情を変えます。東西に抜けるヴォイドと南北をつなぐすべての階のテラスは、風と視線の抜け道となり、永遠に広がる都市を想起させます。椅子を出して本を読んだり、誰かが楽器を弾いているのを聞いたり、物思いにふける人もいます。
歴史、方角、景観、法規などの様々なコンテクストを集積することで、都市の水辺を再編します。

講評
勝矢武之

南北の分棟によって、パブリックとプライベートを分けたり、下層にイベントスペースを置いて、その脇で風の道を通したりなど、住戸のプランニングまで深く考えられていると思います。
気になったのは、東西にあるサーキュレーションの扱いです。街並みに配慮して、下3層と上2層でボリュームを切り分けているにもかかわらず、角のところに5層分のボリュームが立ち上がってしまっています。また、5層すべて同じように階段で上がっていくのではなく、3層目までの店舗がある吹抜けを使ったり、動線計画をうまくつくることで、2棟の隙間がより魅力的になると思います。

高橋堅

ブロックの配置は良いですね。また、前面と裏面を分けて、住宅の一部は道路側に表出されているところも良いと思いました。ただ、この敷地とプログラムの条件において、水辺の再編というアイデアを出しているにもかかわらず、その重要性がいまひとつ感じられなかったところがやや残念です。

木内俊克

全体がいくつかのボリュームに分割されていて、都市的なスケールで建物を構成することがうまくいっているので、好感を持ちました。ただし、例えばトップのボリュームの45度の角度が本当に40度でも50度でもなく45度だったのかというように、細部に必ずしも幾何学に頼るだけではない表情が感じられると、よりヒューマンスケールでも手がかりのある奥行を獲得できたのではないかと思います。