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最優秀賞
前澤実優
なみなみ園
Super Jury
若者の地域離れとコミュニケーション能力の低下、全国的な保育士不足などの社会的背景、世田谷区の住民は仕事をしていない高齢者や主婦が多いという傾向から、地域の人を取り込み、年齢や性別関係なく人との関わりを学べるこども園を目指すことにしました。
子どもが行うプログラムを設定します。少人数で人としての活動を学ぶ場としての「すまい」と、大人数で社会的な活動を学ぶ場としての「仕事場」を分け、「すまい」ではボランティアの方と子ども10人程が共同体として過ごし、「仕事場」では大人数で遊ぶという社会的な活動を保育士さんの看守のもと行います。ボランティアは常に募集をかけていて、常時5名のボランティアが保育園にいる状態にします。従来の保育士さんはすべての時間で子どもの面倒を見る必要がありましたが、ここでは、大人数の時や、専門的なことを行います。
こども園をすまいと仕事場がある街のように設計しています。壁を波状に配し、視覚的・感覚的に地域と混じり合うようにします。
全体的にボリュームをコンパクトに抑え、地域に馴染むことを意識しました。なみなみの壁は、表裏で仕上げを変えています。「すまい」と社会的な学びを促進する「仕事場」や、人と触れ合うおつかいの場があり、園児は「すまい」に登園し、「仕事場」などの大人数の場所に出勤します。
円庭は、芝とゴムマットによって街路を表現しています。波状の壁を立体的に切断することで、壁や柵、ゲートをひとつのラインで構成することができました。ボランティアの方と子どもの共同体は、「すまい」を拠点に活動します。各「すまい」には庭があり、植物を育てることは共同体の目標のひとつです。
おつかいの場は、本屋、食べ物屋、道具屋の3つがあります。本や料理を介して、ボランティアの方や訪れた方と子どもたちが交流します。道具屋は事務室の前にあり、物を借りる、預ける、返すことなどを学びます。
「仕事場」は、歌や遊戯などの子どもとしての仕事をする場です。公園側には仕事場の様子を見ることができる大きな窓があり、事務室の前には公園に来た人が腰を下ろせるウッドデッキがあります。
屋根は、基本的には切妻屋根によって全体性を持たせています。各住まいの前に水道があることや、送り迎えという、1日に二度立ち寄る仕組みを活用して、地域に開いたランドリーを設置したことも工夫のひとつです。
なみなみの壁によって、こども園に地域の人を取り込み、保育士の負担を減らし、さらに子どもが不定期に入れ替わるボランティアの方々と接することで、人間の多様性を学ぶことができます。また、地域に知り合いができることで、子どもが成長した時に、地域に目を向けるきっかけになることを想定しました。
「すまい」に関しては、ゆるいカーブがそれぞれの小さなスケール感を生み出していると同時に、迎える場所もつくられています。屋根のかけ方もおもしろいです。壁は空間を分けるものですが、「すまい」の側ではエントランスの形としてうまく解かれていますね。敷地が不整形なので、単純な切妻屋根がうまくはまらなかったのだと思いますが、屋根が外に出ているところがうまくいっていますね。
ダイアグラムとしてはどうかなと思っていたのですが、壁に穿たれた穴が、さりげなく入っていく感じになっていますね。また、この壁に対して切妻屋根がうまくいかない苦しいところを、アドホックに対応していて、結果として見たことのない個性的なものになっています。全体としてすごく良いと思います。
高橋さんが「アドホック」とおっしゃったことに納得しました。「街にする」という設定もうまくいっているし、仕事場が斜めに切り取られている感じや、切妻の屋根が外壁ラインから少し出ているところは不思議ですごく良いです。ボランティアの方が保育に参加するという設定も評価したいですね。各部分がバラバラで、街のように多主体がばらついている楽しさ、おもしろさに対して、より自覚的になってスタディを続けていくと、また別の設計の難しさが出てきそうです。
あと、図式で壁をつくり、「住まい」や「仕事場」、本屋、道具屋を入れ込んでいくというのは、リノベーションのようでもあります。
平面図をよく見ると、壁の端部や屋根とのつながりなども丁寧にデザインされていますね。立体的な関係などもしっかり考えられています。今まで見たことがないような形ですが、それでも街並みにも合う光景が出現しています。保育園の子どもたちがどのように学んでいくかという設定も素晴らしいですね。自分がつくった形にあらゆる面で責任を取ることできています。