SELECTION
  • 1 / 4
  • 2 / 4
  • 3 / 4
  • 4 / 4

奨励賞
志澤卓磨
島の痕跡 -備忘録的建築群-
卒業設計

現代社会の理路整然と計画された街は、パッケージ化された均質なものに見えます。日常の彩りが失われつつある今だからこそ、身体的な違和感を感じ取れる空間が必要ではないかと考えました。
敷地の江ノ島は、元々は参詣地でしたが、観光地化に伴い、建物が整備され、大規模な人工地盤による開発が進められています。それに伴い、島の歴史的文脈は形骸化し、消えていっています。
私は、埋もれてしまった歴史を掘り起こし、「備忘録」として建築を設計することで、島全体を博物館と見立てます。江ノ島の歴史に、ドローイングで形を与え、建築的な要素に還元することによって設計を行います。

本設計では、12個の建築と、それを結ぶ4つの道を設計しました。その中から3つの建築について説明します。
紀元前7,000〜1,500年「縄文に還る」。江ノ島植物園内遺跡は、藤沢市最古の地層・葉山層を基盤とした標高約60mの丘陵地にあります。遺跡のトレンチの質感や形を参照したドローイングを描き、空間を設計しました。土の感触や匂い、凸凹の形状から縄文の遺跡を想起させることを意図しています。

1047年「海だまり」。伝説では、岩屋の洞窟にある地獄穴は、富士の鳴沢氷穴につながっており、その道中には水が溜まった洞穴があったとされています。地獄穴に水が溜まる現象を描き、形を与えました。中央に向かい緩やかに下がっていく空間は、潮の満ち引きによる水位の変化を知覚できます。渦のような動線によって内部に入っていくと、波の音だけが聞こえる空間があります

1940年「輪廻」。既存の塔は、江ノ島サムエル・コッキング苑の中に、江ノ島シーキャンドルとしてそびえ立つ展望台です。島の植生環境や気象から乖離して、ただそびえ立っている無骨な印象を受けます。この象徴的な構造体を自然が隠蔽することを狙い、伝説の五頭龍をモチーフにして、螺旋が展望台に絡みつき覆いかぶさるような設計としました。五頭龍は5つのパイプとなり、植栽が下から時間をかけて侵食していきます。

歴史からデザインコードを抽出し、ドローイングから建築化した12個の建築群によって、日常とは異なる違和感を知覚し、歴史の一端に触れることができます。建築による歴史の備忘録は、土地の出来事を記録し、時間をかけて集積していきます。

備忘録的建築群を巡ることで、人の動きは多様化します。分散して存在する建築を結ぶ道の設計も行うことによって、人の能動的な感性を刺激し、新しい風景につながる基礎となっていきます。内的体験を伴った新しい風景に触れるための建築群です。

講評
佐藤光彦

それぞれの場所の記憶を丁寧に読み込んで設計をしていった姿勢がとても良かったです。一方で、それぞれの建築の形が、ドームやヴォールトやスパイラルなど、プライマリーなものになっている点が気になりました。この場所だからこそ、志澤さんならではの建築形態が設計できればさらに良かったと思います。

馬場兼伸

島全体を体験的博物館に転化するアイデアや、断片的な出来事や記憶を記録するという意味を含んだ「備忘録的建築群」というタイトルに想像が膨らみました。登山者が登頂した山の頂に石を積んでいったりするように、様々な人の手が加えられていき、自然発生的に立ち上がる営為を想起させるストーリーもありえたかもしれません。

雨宮知彦

歴史的な建造物を備忘録的に残すだけではなく、志澤さんがフィクションを含めた歴史を解釈して建築として残していく計画になっています。一時期にすべてを完成させるのではなく、時間をかけて土地のポテンシャルや歴史を生態系的につないでいくようなものになっていて、良い提案だと思いました。