SELECTION
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駿優賞
風間花
商店街を看取る -放置された都市開発計画地の一時利用と解体-
卒業設計

古いものが滅び、新しいものが生まれることは、自然の摂理であり、人も街も生死を繰り返すことで発展してきました。街角には、様々な理由により再開発が行われず放置されているエリアが多く見られます。このような地域を私は「一時停止区域」と呼ぶことにしました。
本計画地である戸越公園駅前商店街は、都市計画に伴い多くの住宅・店舗が取り壊される予定ですが、自分の生活の場を守ろうとする市民による反対運動が行われています。しかし、商店街が取り壊されず残ったとして、未来はあるのでしょうか。
新旧交代の時を迎えた街には、変化を拒み存続させるだけではなく、衰退を受け入れ緩やかな最期を看取る選択肢が必要だと考えます。

本計画では、既存商店街が消滅するまでの過程をデザインし、生活・人・建築が最期を迎える場所となるホスピス空間を提案します。
戸越公園駅前商店街は、昔ながらの商店が軒を連ね、地元の人の生活の場になっていますが、徐々に活気が失われつつもあります。現在、「駅前市街地再開発事業」と「補助29号線設置計画」というふたつの計画があります。前者は、現在13棟の建物がある計画地に、23階建て、高さ85mのマンションが建設される予定です。住人はすでに立ち退いていますが、近隣住民の反対により、建設は進まず放置されている一時停止区域です。後者は、商店街が面する道路で幅員20mの拡幅工事が行われます。それにより、道の東側に面する全店舗が立ち退きを求められています。
このふたつの計画により、合計29の建物が立ち退きを迫られ、商店街の西側は拡幅された道路に面した店舗として存続する予定です。「駅前市街地再開発事業」の計画地には、拡幅道路にかぶる2棟を除き、11棟の建築が存在します。

ここでは、補助29号線設置計画で立ち退きを迫られている店舗を、反対によって再開発が停止している駅前市街地再開発事業の敷地に移転させます。徐々に衰退していく商店街の店舗を看取る受け皿として活用し、最終的にすべての看取りが完了するまで本計画を継続します。本計画完了後には、新しい時代へと引き渡し、高層マンションが敷地に建設されます。

基本的に消滅の未来を見据えた減築などの引き算の操作で設計を行い、新設部分を最小限に抑えています。

道路に面した立面はラーメン構造のみを残したまま壁面を解体し、そのセットバックによってできた外部空間に動線を挿入します。その動線からは既存の商店街の特徴である青空が見え、外気に面した道のあり方を意識しています。建物間にはブリッジを片持ち梁で伸ばし、相互に行き来できるようにします。
区画の接道部分には商店を設け、内側には住戸を設けています。屋上は、商店街の住人と訪れた人々のアクティビティが混じり合う多様な空間となります。
ファサードには商店の看板を立体的に配置します。看板と店舗本体に挟まれた廊下は、既存商店街の両側が賑わいで挟まれた空間を引き継いでいます。壁が解体されたラーメン構造の柱梁には、カーテンや間仕切り壁などを設け、仮説的な空間をつくります。敷地内の最も高い建物には、既存商店街を見下ろせる展望所を設けています。

2階平面

断面

これらの建築群は、約15年の時の経過とともに1棟ずつ取り壊され、当初のマンション計画へと着地します。この看取り期間においては、確かにここに存在した生活を強く人々に印象付け、商店街は一方的な再開発への反対と、衰退を受け入れるという真逆に思える行為を同時に行うこととなります。彼らには、新築されたマンションがそびえ立つ墓場にさえ見えるでしょう。

講評
泉山塁威

徐々に衰退していく商店街に対して、建築的・空間的な価値や記憶を残していこうという提案で、都市計画や再開発事業の問題に深く踏み込んだ作品だと思います。ただ、この計画の後に、お墓参りをしにくるような人を残す磁力を持たせることがどこまでできるのかという点では疑問が残りました。

塚田修大

これがフィクションとしての提案という意味で合点がいきました。現実を変えるために強度あるフィクションが必要な時があると思います。さらにフィクショナルな世界を突き詰めていくとすると、例えば、タイムスパンを100年以上に設定するとか、もっと大きなストーリーを描いてみることもできると思いました。

馬場兼伸

再開発までの間の時間に起こる出来事を描くことで、未来の幅が広がると捉えるとおもしろいと思いました。ひとつの結論を提示するのではなく、ゴールが複数あるような設定もあり得たのではないでしょうか。例えば、高層マンションの規模が縮小されて一部に既存建物が残ったり、硬直状態が続いて敷地がスラム化してしまうなど。開発が既定のフロー通りに進むのは未来への想像力を削ぎ落とした結果ですから、多様に想像し描き続けることで、現実を変える力だって持ちうると思います。