SELECTION
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桜建賞
森野和泉
THE ARCHITECTURE AS IMPACT
卒業設計

本研究のテーマは建築形態の根拠性です。建築の強度を担保する根拠はどこにあるのか、何にもとづいて形態を決定しているのかを考えました。ルネサンスとモダニズムという過去の二度の革命から、建築の強度とは、時間や空間を超えてなお再現性のある、普遍的な構造を持つものと考えました。
モダニズムで確立されたデカルト座標系を前提とした世界を疑い、設計を行なっていきます。本研究では、ひとつの建築の物語よりも、物語を書くための原稿用紙を制作したいと思い、フィリッポ・ブルネレスキが用いた射影照射器を逆照射するように、3次元空間に投影図を書いて、そこから立体を立ち上げるという手法を用いました。
アクソノメトリック図法・カバリエ図法・透視図法の3つの図法に対して、WORLD-AXO、WORLD-CAV、WORLD-PERという3つの世界を提案します。
ケーススタディとして「バウハウス・デッサウ校舎」を用いて変形を検討しました。

WORLD-AXOは、アクソノメトリック図を3次元空間にある射影平面に投影した平面図として読み替えます。それにより、立面は斜めになり、壁は天井とも採光装置とも呼べないエレメントに歪められます。空間の垂直性が解体され、立面と断面の再構成がなされました。

WORLD-CAVは、カバリエ図を3次元空間にある射影平面に投影した立面図として読み替えます。大きく変形した建築ボリュームは、地上から傾斜角14度で持ち上がるため、壁とも床とも言えない斜めの平面が空間に加わりました。人間は自らの位置を固定するために筋肉を使い、休むための場所を必要とするため、まったく新しい動線が想定されるでしょう。水平性の解体、平面の再構成がなされました。

WORLD-PERは、透視図を3次元空間にある射影平面に投影した立面図として読み替えます。既存のファサードに覆い被さり、ダブルスキンが肥大化したような様相に変わっています。これを「書割ファサード」と名付けました。一点透視図において、無限は消失点として表現されてきました。しかし私は、3次元空間にいながら無限を観測したいと思いました。例えば、無限に長大な構築物があったとして、その物体をWORLD-PERを介すと、無限遠が有限のエッジとして現れた立面図になります。つまり、このエッジの先端に無限が集約され、私と同じ次元で観測可能になったということになります。WORLD-PERをつくろうと思ったもうひとつのきっかけは、アンドレア・パラーディオの「テアトロ・オリンピコ」です。舞台装置の一番奥に立ち、観客を見つめ返すとどのように見えるかと疑問に思いました。壁に入る方法を考えた結果、2次元の面である壁を立体に起こすという方法に至りました。

私の創作は、純粋な好奇心から始まっています。以上のことから、原稿用紙をつくり替えることで新たな建築形態の発見の可能性が見出されたと結論づけます。

講評
馬場兼伸

視覚体験と表現手法、そして実体を往還する興味深い作品でした。ただ、(かつてピーター・アイゼンマンやジョン・ヘイダックは静的な近代建築を揺るがすべく図法を逆手に取って知的な戦いを挑みましたが)この作品の世界が現在どのようなIMPACTを持つのか、もう少し想像させてほしかったです。作者の内面表現とも言えるのかもしれませんが、正しい実体を正しく描くための手法が変奏されることによって、自律した異質な価値が立ち上がる、そのことをもっと言い当てる言葉や現実の事象があるのではないかと思いました。

塚田修大

ピーター・アイゼンマンの「HOUSE X」などを参照していて、僕の学生時代を懐かしく思い出しました。対象とその表現はズレを孕んでいて、それが起動力になって空間が変わっていくという方法論はおもしろいと思います。ただ、最終的なアウトプットがパースペクティブで良かったのでしょうか。そのパースペクティブを対象化してWORLD-PERにかけると、また違うものが描けて、それをまた空間化していくなど、無限の円環状態を想像しました。この方法論自体は共感できます。

高橋堅

この作品は、新たなノーテーションの提案だと思います。建築は記述されることで現実とはまた別のものになるわけですが、ドローイングでしか認知しえない空間の関係性は確かに存在します。また、記述されたものが建築を逆説的に規定するという現象は、逆日影や逆天空率など現実にも存在します。ドローイングを二次的で説明的なものに押し留めておくのではなく、建築の可能性を広げるものにするきっかけを、この提案は持っていると思います。

勝矢武之

3Dモデリングが一般的になっている今の時代は、空間のノーテーションがあまり探求されなくなってしまいました。この作品ではパースペクティブを扱っていますが、これは近代的なノーテーションだと思います。むしろ、四次元などの別のノーテーションを追求することで、現代的な新しい建築への糸口が見えてくると思います。ペースペクティブが有する無限の消失点を実体化させるという可能性もあると感じます。