SELECTION
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優秀賞
片山利恵
都市の狭間
Super Jury

この計画敷地を広い視点から見て、東京という都市、代官山という街、計画敷地という3ステップを踏みました。
東京という都市は、この40〜50年の近代以降の技術をもとにつくられた都市です。技術を背景に、複雑な用途の組み合わせや空間構成がつくられました。オフィスの横に首都高が通っていて、その上に住宅がある、そんな都市が東京です。ここで私は、東京を混沌とした都市と定義しました。
代官山は、旧山手通り沿いの建物は整っていますが、一歩その外に出ると、建物の高さがバラバラで、商業施設と住宅が混在しています。東京は混沌とした都市である一方、代官山は秩序へ向かう街と定義します。
敷地周辺には、住宅地エリア、旧山手通り沿いの美しい商業地エリア、住宅地と小さい商業施設が混在するエリアの3つがあります。旧山手通り沿いの商業エリアを「秩序」と捉え、住宅エリアは「混沌」として捉えました。この敷地はその間に位置するため、秩序と混沌が競り合う建築を設計しようと思いました。

平面

コンクリートの壁を秩序、不揃いで乱雑に配置されるボックスを混沌として捉えます。建物は5階建てで、北面を全フロア商業施設、南面を全フロア住戸とし、真ん中にコアと共用廊下を配置しました。
商業施設は、迷路のような奥行感のある空間です。街に対してずっしりとした佇まいで、中へ入ると乱雑な配置のボックスによる空間で、下から貫通する大壁により混沌とした空間を整えます。用がない人でも通り抜けできるように、階段を配置しました。

3階平面詳細

各住戸に複数のテラスを設け、大壁によって各住戸のプライバシーを守っています。テラスに出て下を見ると、大壁が貫かれている様子が確認できます。上を見上げると、大壁と空が見えます。

講評
勝矢武之

図式からつくる時に、それが建物のスケールと合っているかはとても大事なところです。今回は、一部屋を一ボリュームと決めて、それを積み上げて壁をつくっていますが、その結果できた隙間が結構狭いですね。壁の間に隙間ができて、ボリュームとボリュームの間にも隙間ができて、それらがオーバーレイした時に起こる相互作用にも意識的になってほしかったです。また、北側と南側のコンテクスト、密度の違いが結果的に表情の差をつくっているという説明の方がしっくりきますね。自分で設定した造形ルールに則って最後まで勝負してほしかったです。

木内俊克

力作だと思います。こういった建築の最高峰は、ボストンにあるフランク・ゲーリー設計の「MITステイタ・センター」(2004)だと思います。プライバシーの問題なども色々あるのですが、水平方向だけではなく上下方向でも複雑なボリュームの貫入や絡み合いが起きていて、他にはない体験があります。
住宅は、どうしても基準階のようなものを積み上げて解きたくなると思いますが、床を支配的なものにしないやり方、例えば、壁と壁の間で処理するのではなく、Z型にうねっていくボリュームが絡み合っていくとか、どこをブーリアンでつなぎ、切るのかを検討していくと、もっと楽しくなると思います。実際これができたとして、その空間体験を想像してみてください。

高橋堅

フランク・ゲーリーは僕も好きで、「ヴィトラ・デザイン・ミュージアム」(1989)など、大学生の時に見に行って衝撃を受けました。単純性を持っているにもかかわらず迷宮性を持っているものを考えたり、調べてみたりすると良いと思います。ゲーリーは天才ですが、素人が複雑さを無邪気に希求することは危険です。例えば、ミース・ファンデル・ローエの「バルセロナ・パビリオン」(1929)は、すごく単純だけど迷いそうになります。自律した論理を持ったふたつの空間を重ねるだけで、両義性を持ったどうにも定義できないような複雑性を獲得することもできます。

佐藤光彦

複雑なものを複雑に表現することは意外と簡単だという議論がありました。「ヴィトラ・デザイン・ミュージアム」は、複雑な形態を持ちながら、空間のシークエンスとしては自然に展開していて傑作なのですが、フランク・ゲーリーの空間のつなぎ方や形態操作を、初期の作品から参照することも勉強になると思います。そのうえで自分の設計を検証していくのも良いですね。