SELECTION
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非常勤講師賞(式地香織・下川太郎・塚田修大賞)
市原未悠
アーバンディスコ -日常に潜む小さな舞台-
卒業設計

私は、計画された施設よりも渋谷駅前広場が魅力的な公共空間ではないかと感じます。ステージや客席がないにもかかわらず、路上ライブをやっていたり、壁際でYouTubeの撮影をしていたり、多様な人々による場の読み替えが伝播し広がっていく様子は、ふと踊ってしまいたくなるディスコのような空間に似ていると思いました。そのような読み替えによって、形式がない、都市に伝染して、偶発的に形成された一体感を「アーバンディスコ」と名付けました。
敷地は、井の頭恩賜公園とし、点在している20のアーバンディスコを採取しました。そこでの既存の活動に併置するように、公園と街の境界となる場所(エリアA・B・C)にアーバンディスコが起こりうる空間として映像を投影するスクリーンを設計し、人々の新たな読み替えを誘発させます。

エリアAは、神田川の源流が流れ、公園の入口に位置し、人が少ない場所です。私はここにスクリーンと映写室を挿入します。このスクリーンは一見巨大な壁に見えますが、ボールをぶつけて遊ばれたり、待ち合わせのシンボルになるかもしれません。映像を映したら、何かが始まる気配を感じて人々が集まるかもしれません。あるいは電車からその様子を見た人が、すぐ隣の駅で降り、私さえ見つけていないアーバンディスコを生み出すかもしれません。

エリアBは、公園の華とも言える賑やかなエリアです。私は、野外ステージに塔を、そして池を挟んだ対岸には一端がカーブした壁を設置します。普段は別々に存在する塔と怪しげな壁ですが、スクリーンがかけられ映像が投影されると、それを見た人々は場を読み替えるかもしれません。ある人は塔側の岸の柵に腰をかけてスクリーンを眺めるかもしれないし、壁側の岸に映像を眺める人々が集まっているのを見て、近づいてくる人がいるかもしれません。

エリアCは、高架と公園が交わっていて、個人的に最も印象的な場所です。ここでは、高架に面する住宅の2階のバルコニーを延長し、スクリーンを設置します。すると、プライベート性があり、入って良いのかわからない空間に、恐る恐る人が集まってくるかもしれません。電車内からその様子を見た人は、自由に使える場だと認識して、普段から人が集まる展望台のような場所になる可能性もあります。また、この住宅構成が他の建築にも伝播して、高架の周りがアーバンディスコする空間として広がっていくかもしれません。

これら私が挿入した建築や、採取したアーバンディスコは、普段は点在し、バラバラに存在して、場の読替えも必ず起こるとは限らない形式のないものです。しかし、ライブや映画などひとつの施設に大勢が集まるのが良しとされないこの時代に、選択可能性を持ったアーバンディスコは新しい公共空間のかたちになるのではないでしょうか。

講評
塚田修大

アーバンディスコという変わった響きが好きです。計画されていない場所での人々の自由な振る舞いという意味では、私は渋谷駅前の広場ですらも用意された公共空間ではないかと思います。市原さんの採集したものは、普通の道でも、ビルの裏側でも、都市の一部で起こっていることなのではないでしょうか。個別の事象や活動を創造的に深読みしながらシナリオが紡がれていて、単に観察と発見に留まらない素晴らしさがあると思いました。

富永大毅

沢山の小さなドローイングで描かれたストーリーが魅力的で、この記述方法だけでも価値があると思いました。一方で、それを形にする段階では、人々に使い方を発見してほしいという願いをデザインに落とし込むという、かなり難しい作業になっていて、建築に落とし込まないアウトプットの可能性もあり得たのではないかと思います。