SELECTION
  • 1 / 5
  • 2 / 5
  • 3 / 5
  • 4 / 5
  • 5 / 5

坂口智・佐藤吹雪・田沼元
古書のある日常
Super Jury

私たちは、生きられる都市空間を「多くの人々の偶発的な活動によって記憶の一部となり、日常を彩る空間」と定義しました。
現在、神保町駅は約38万人が乗り降りしています。神保町エリアには学校や古書店が多く、大学の蔵書含め、多くの書籍が存在しています。東京古書組合の活動拠点である東京古書会館では、古書交換会が行われています。神保町駅は3路線の乗り換え地点で駅自体が複雑で、利用者は一定の出口のみ利用し、人々が交流しづらい現状があります。
そこで、駅の主要出口にアプローチ空間を設計することで、それぞれの個性にあった空間を構成し、街全体に影響を与えることを試みます。増加する書籍を管理する場所が不足している問題もあります。地域の知の象徴として、見せる閉架書庫を計画し、大学・企業とを連携させた「本のアクティビティ」をつくり出します。駅を含め、神保町は、閉じた読書空間しかないので、街にオープンスペースをつくり、無料の滞留スペースを確保します。東京古書会館でのイベントは街に可視化させます。

本計画では、神保町駅の全9つの出口から4つを選んで設計を進めました。交差点に面するA6出口に本計画の拠点を設けます。A2出口、A5出口は通勤通学者が多く使うので、それに合わせて設計を行います。A8、A9地下は周辺オフィスにアクセスするための何もない長い地下通路を計画地にします。
4カ所を地下道のネットワークでつなぎ、各出口に滞在と通過の観点からヒエラルキーをつくりました。各アクティビティに人々の動く速度を調査し、各機能を速度に合わせて決定しました。
設計手法は、①地下階段の保存と拡張、②渋谷都市開発で用いられたような地下に光を落とすアーバンコア、③地下と地上の空間比率の統一、④蹴上・踏面の寸法統一、拡張による連続性の創出、の4つを用います。
本計画の拠点であるA6出口「集積するターミナル」では、本のレンタル、ホテル、シアター、カフェ、オフィス、イベントスペースなどの様々な施設を入れて、古書と触れ合う空間にします。サブカルチャー、文学、趣味、美術の本棚を置くことを想定しています。A6出口には、260人収容できる岩波ホールや、神保町唯一の公共ベンチがあり、階段の蹴上・踏面だけでなく幅も統一し、連続性をもたらしています。

最下階(GL-7,000mm)では、岩波ホールを中心にホワイエなどがあります。その上には意見交換会などを行う多目的プレイスを配置しています。ホワイエには自然光が差し込みます。次の層(GL-3,500mm)では「読むホワイエ」を中心にアクティビティが広がります。地上部では古書を借りられるブックカフェや、古書組合活動所、「読み聞かせ場」があり、各所に休憩スペースを設けています。
2階・3階では、日なたや日陰など、読書のための環境を多様化しています。4階は吹抜け上部にあり、ブックホテルの受付や本を通じたイベントが行われるイベント庭園があります。5階には南側にブックホテルがあり、北側にレンタルオフィスがあり、6階には南側に岩波書店のオフィス、北側にブックホテルが配置されています。階段は建築内の体験を連続するように配置しています。

A2出口「静思するラウンジ」について説明します。ここでは、落ち着いた既存空間を活かして、豊かな読書・勉強空間ができるように、古書レンタル、勉強スペース、イベントスペースを計画します。

最下部(GL-8,330mm)では、多目的プレイスに加えて、地下広場とレンタル受付があります。建築中央に階段を配置し、すり鉢状に広がりながら上部に向かっていきます。地下広場には自然光が入ります。

A5出口は、「交差するラウンジ」と名付けました。地下鉄のホームに隣接しているのが特徴です。現状は暗く、街から離れた印象を受けます。地下2階(GL-9,300mm)、地下1階(GL-7,000mm)は、駅のホームとつながった空間で読書を楽しむことができます。地上階は交差点からの人を引き込むような形になっています。

運営スキーム

講評
高橋堅

買った後のワクワク感を持ったまま本を開きたいという欲求は確かにあるので、本を読む場所があるのは良いと思います。ただ、神保町は煮詰まった街で、再開発が裏の方で起き始めてはいますが、10年20年後も変わらないような雰囲気があり、そうした街にこのやや大袈裟な建築は合うでしょうか。なんとなく丸の内に建っている建物のようだと感じてしまいました。A6出口の建築も大きな公共建築のように見えます。もう少し、各所に秘密の場所があるという感じの方が神保町に合っている気がします。
コロナ禍という状況もありますから、電話やメールで古書店の方にどんな街になってほしいかを聞いてみるとか、もっと実際的な調査があった方が良かったですね。

勝矢武之

運営面・資金面を気にするのは当然ですが、それ以上に街に対するビジョンが聞きたかったです。明るくしたいのはよくわかりますが、ガラスを大きく用いるのは単純なので違和感があります。ガラス壁は、既存の街の細やかなスケールを一新するような雰囲気があり、それが高橋さんの「丸の内に建っているよう」という印象にもつながっていると思います。

木内俊克

影を描いているようなパースは、神保町の雰囲気に寄り添っている印象も受けます。ただ、デベロッパー的な目線、街の人から見る目線、歴史的観点などから、どう折り合いをつけているのかを見ていましたが、やや暴力的なニュアンスを持っていると感じました。神保町が抱えている問題がいくつか挙げられていましたが、ターゲットとして絞り切れていなかったのではないでしょうか。例えば、増加し続ける書籍数の対応を考えるのであれば、古書店の実態を調べて、閉架書庫のあり方に絞ってスタディすることなどもできたと思います。