LECTURE

Super Jury 2020 ショートレクチャー
勝矢武之(日建設計)
REPORT

私は日建設計の設計部門に所属しています。現代は、求められるものをつくるだけではなく、問いを提案していかなければいけない時代だと思います。「NIKKEN ACTIVITY DESIGN lab」という、いわばデザインシンクタンクのようなチームも率いていて、プロジェクトのスタートからお客さんと深く関わり、建築が出来た後も引き続き発展させていく仕事もしています。
今日は、最近私が大事にしていることをお伝えできればと思います。都心に建物を設計することが多いので、自由に形をつくることは意外とありません。一度くらい大草原に自由に建物を建ててみたいという願望はありますが、そういう機会はなかなかなく、敷地に縛られながら建築の形をつくるので、常に難儀しています。敷地の周りに街があるということは、建築のファサードが街のファサードでのあるということです。なので、形をつくる時には、建築の内部空間はもちろん大事ですが、都市から見た時の建ち方も考えながら、建築と都市の間に建築の形を見出すことを試みています。
また、私たちの仕事はクライアントに求められて建築をデザインすることですが、同時に、求められた以上のものを提案することを大事にしています。例えば、学ぶための教室をつくる時であれば、その隣に機能の曖昧な余白、名前のない場所をつくっていくことで、人々の活動をよりアクティベートすることができます。プロジェクトの本質を、求められた機能だけでなく、そこで起こりうる剰余の可能性にも見出していきたいと思います。
高橋堅さんが、現代において新しさを考えるのは難しいとおっしゃっていましたが、私は、新しさではなく、プロジェクトごとのオリジナリティやユニークネスにたどり着くことが重要だと思います。建築の素材や、その土地の風土を活かした形を見出すことで、建築をローカライズするとともに、そこにしかないオリジナリティを目指しています。

最近できた建物を紹介します。ひとつ目は、延期になった国際的な巨大スポーツイベントの競技場のひとつである「有明体操競技場」(2019)です。海に面した、元々貯木場だったエリアが敷地です。
ローコストが求められており、合理的でシンプルな形を目指しました。断面がレンズ型をしており、下の椀型は客席と競技スペースになっており、その斜めの客席の下が外部のコンコースになっています。この客席の上に80mほどのスパンを持った屋根を木でつくりました。木は弱い素材に見えますが、重量が軽いので、自重を支えるのには合理性があります。木はアーチ状になっているので自重がもたらす圧縮力には強いのですが、地震や風に耐えるため、木の上弦材にスチールの引張材をからめた張弦梁という構造にしています。この大屋根は、地面で組み上げたものをリフトアップし、客席上に固定しています。
元貯木場の地に建つことから、客席の下の斜め外装を無垢の杉の角材で覆いました。この木の物質感を活かしたいと思い、80mm角のスギをずらしながら積み上げています。外部コンコースからは貯木場があった海が見えます。そんな歴史に思いを馳せるような、木の庇に包まれた木の競技場をつくりました。

撮影:鈴木研一

これは「東亜道路工業本社ビル」(2015)です。このすぐ近くにTOTOギャラリー・間があります。敷地が「く」の字形だったので、コンクリートによるY字とC字の形の2種類の床を積み上げています。各階の抜けの方向が違うので、街に対して多様な顔をつくっていくのと同時に、上下の隙間が2層の吹抜けを形成し、レセプション、エントランス、ホールなどになっています。六本木という混沌とした街の文脈を受け止めるデザインです。平面としては、このY字とC字の床の上に、機能を備えた石のようなヴォリュームを置き、その周囲に流れとよどみを生み出すようプランニングされています。

最後はスペインのFCバルセロナの本拠地「カンプ・ノウスタジアム」(2015コンペ、2024竣工予定)で、約10万人が入るスタジアムです。60年前に建てられ、増築が重ねられた複雑な既存建築を、もうひと回り大きくするという計画です。
ここでは、21世紀のスポーツ観戦体験と、それが街の中に建つことの意味を考えてスタジアムをデザインしました。20世紀であれば、サッカーを愛するコアな一部のファンが集まる「閉じた場」でしたが、今は家族連れなどの様々な層や世界中からの旅行者が観戦にやって来ます。そのような時代にふさわしい、多様な人たちが楽しめるパブリックな空間、「開かれたスタジアム」を提案しました。

まず、スタジアムの周りのフェンスをなくして公園のように街に開かれたランドスケープをつくります。その地形を変形させ、段差や凹凸をつくりながらミュージアムなどの様々なプログラムを融合させています。そして、最も特徴的なのは、客席に入るためのコンコースのさらに外側に、試合の前後や試合のない日に、人々がくつろぎ、出会う場所となる巨大なバルコニーを加えたことです。こうした工夫により、スポーツ観戦を超えて、スタジアムがパブリックネスを獲得することを目指しました。結果として、バルセロナの心地よい気候を満喫できる、この土地ならではの街に開かれたスタジアムになりました。[2020年9月26日 @日本大学理工学部建築学科]