SELECTION
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津川恵理賞
佐々木迅・藤村知紀・松野駿平
秋葉原看板裏物語
Super Jury

秋葉原はポップカルチャーの街として有名で、それを表象するおびただしい量の壁面広告に特異性があります。秋葉原に建つビルには、機能、形態、表象(ファサード)に加え、4つ目の要素として看板の支持体があり、その景観を支えています。
現状の看板の支持体は、経済合理性を重視した最も簡易的な設えに留まっています。一方、道頓堀やニューヨークの街では、ひとつひとつの看板は自由にふるまい、商品の情報を伝える役割を超えて、看板群として特異な空間体験をつくっています。そこで、私たちは数10cmの看板の支持体層を引き伸ばすことを考えました。
敷地は秋葉原駅近くの看板広告が集中する中央通り沿いのビルです。

外壁と看板の間の支持体層を拡張すると、自由な看板のふるまいにつながり、可変的な都市のファサードをつくり出します。支持体層は隣接するビルのテナントが自由に増改築でき、個人が都市の空間に関与するきっかけとなります。また、縦方向のヒエラルキーがなくなると同時に、小さな資本でも広告掲出ができるようになります。
そうして生まれた雑多な空間の中で、人々はお気に入りの動線や居場所を見出し、都市の一部を自分だけの特別な空間として認識します。

コミケのようなイベントが年に数回開かれ、アニメやゲームなどの個人創作物が看板をジャックし、都市と個人の新たな関わりが生まれます。屋上広告棟の裏のレンタルゲーミングルームでは、ゲーマーたちが住み着き、それぞれの部屋を自分好みにつくり替えます。南西のレンタルショーケースギャラリーでは、誰でも自らの趣味を展示販売ができ、カルチャーを発信する場となります。eスポーツ用の競技場では、外周の看板にリアルタイムで内部のプレイ画面が映し出され、個人が対戦する様子が都市の風景の一部を担います。

わずか数10cmの看板裏に潜む秋葉原の隠れた物語です。看板の支持体層が拡張され新たな空間が生まれた時、自由にふるまう看板は個人が操作可能な都市のポスターとなります。私たちは、個人が参画できる都市こそ生きられる都市のあり方だと考えます。

講評
佐藤淳

看板裏への着目が魅力的です。1〜2m支持体を持ち出した時にどんな形が生まれてくるのか、それぞれが目立とうとするわけですが、その幾何学の可能性など、実際に設計する対象への分析をもっと聞きたかったです。

津川恵理

ひとつの映画のようなプレゼンテーションの世界観に引き込まれました。着眼点も良い意味で狂っていて興奮しました。広告とビルの間がどんな都市空間になり得るのかまで踏み込んでほしかったです。既存ビルではできない状況を見せてくれると、より人を惹きつけるものになると思います。

馬場兼伸

情報化社会や看板の現在性を捉えていて、着眼点がおもしろかったです。支持体だけではなく、ビル自体も支持体の一部として見立てたり、秋葉原の街そのものが看板の支持体であるような大胆な見立てもあり得るように思います。