SELECTION
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奨励賞
清水勇佑
荒川区町屋地区の空間特性を継承した地域施設と集住体複合施設の設計提案 -江川堀に育まれた互助的共同体の再生を目指して-
修士設計

水路のある木造密集地域では、閉じた線状の中庭空間により共同意識が形成され、水を共有することで互助的共同体が育まれてきました。この提案では、水路を中心とした空間特性を地域施設に反映し再評価を行い、豊かな地域コミュニティの再生を目的とします。
元々は農地だった時の水路ですが、その周りに木造密集地域が形成され、助け合いの生活空間が育まれていった地域は多く存在します。しかし、水路は次第に溝川へ変化し、堀によって断絶され、埋め立てられ歩行空間となっていきました。水路の暗渠化により地域の産業や銭湯の衰退が起こり、地域コミュニティの衰退へとつながったと考えています。
計画敷地・水路を選定していくなかで、暗渠が多く存在している地域を6つ取り上げ、比較分析を行います。水路と地盤面や両岸に高低差がない敷地で、かつ狭小な水路を条件とし、荒川区の江川堀を選定しました。江川堀の中でも、住宅と住宅との間に水路が形成される地域としてaの敷地を対象敷地とします。

そこでは、かつて銭湯や工場、住宅が水路を中心に市民コミュニティを育んできました。水路を中心に閉じた空間構成であり、そこに隣三軒両隣の付き合いによる段階的なつながりが生まれ、さらに機能的に連携する互助的な共同体が形成されることで、豊かなコミュニティが形成されたと考えられます。これらの3つの特性を地域施設として変換していきました。
江川堀の衰退に伴い、生活困窮者の高齢化や独居老人の増加、空き家・空き地の増加が課題で、計画対象敷地でも水路を中心に空き家があります。

Site-Aの既存の地域施設、老朽化した地域施設とSite-B、C、Dの空き地を対象敷地として計画 します。それぞれの敷地に対して水路と路地の関係性を分析し、用途を決定します。Site-Aでは生活支援を行う地域施設と病院を提案し、Site-Dではカフェを併設する発信拠点を提案しています。Site-Bでは保育園と高齢者施設、Site-Cは道の奥まった敷地の特性を活かして、低所得者向けのアパートと銭湯施設を提案します。
小さなコミュニティから大きなコミュニティへと徐々に連続するようにコモンスペースを配置し、各コモンスペースに互助や共助が生まれるよう、プログラムや動線計画を行います。

Site-A「共生ビオトープ」は、山谷地域などの広域の生活困窮者を受け入れ、江川堀の互助的共同体の視点、入口の役割を果たします。コモンスペースでは看護学生を介して患者や看護師の共同体が形成され、お手伝いの交流を誘発します。コモンスペースの両サイドには病棟を配置しています。

グランドレベルでは、江川堀を再生した水路と緑地を建築内部に引き込み、1階から大階段を連続させ、座れるコモンスペースを計画しました。生活困窮者や独居老人の居場所と患者の待合室を設け、交流スペースとします。緑道のスロープと大階段は連続し、2階では食堂と生活相談窓口をゆるやかにつなぎ、地域住民の居場所と生活支援による社会復帰を目指す場を提供します。3階では病棟を連続させ、ベッドごと散歩できるよう計画しました。病棟計画では患者を世代別に分け、共同体を中心とした新たな病院施設を提案します。各階に院内スクールやライブライリー、自習ブースを設け、看護学生を介して各世代がつながり、互助的共同体が育めるような計画です。

断面

3階平面

2階平面

1階平面

Site-B「幼老共育の中庭」では、水路を挟んで路地が形成され、住宅が建ち並ぶ構成を継承し、ふたつの地域施設を向かい合わせて互助的共同体を形成する提案を行いました。グランドレベルの江川堀を再生した西部から、鉛直上に緑と水を巻き上げる断面操作を行うことで、看護学生を介した幼児や高齢者の共同体の形成を促し、食堂やホール、ライブラリーの共有による路地的互助を誘発します。

断面

立面は高齢者施設と保育園を中庭空間に対して向かい合うように配し、切妻が個々の共同体を表し、周囲の住宅と調和するようにしています。中庭は植栽で覆われたアルミメッシュが鳥や生物を水路へ誘導し、豊かな自然をグランドレベルまで引き込みます。
平面計画では、園児と高齢者を中庭や食堂を介してつなぎ、食堂は地域住民も利用できるようにします。2階の中庭から屋外遊技場とライブラリーが連続し、賑わいを生み出します。

2階平面

1階平面

Site-C「地域の洗い場」では、銭湯と低所得者向けのアパートを計画します。鉄筋コンクリートの二重スラブを用い、水路の水の浄化と蓄熱を組み合わせた建築形態とし、銭湯機能を地域に開放し、互助的共同体の形成を促します。シェアキッチンやダイニング、銭湯、ライブラリー、ランドリーなどが中央の中庭空間を介してゆるやかにつながっています。

断面

1階平面

Site-Dの「江川堀ゲート」では、発信拠点である水門を親水空間と水路の軸を強調した自然を巻き上げるシンボリックな形態とし、地域住民と運営学生が互助的共同体を形成します。

断面

1階平面

これらの4つの地域施設を水路沿いに分散配置することで地域に開き、機能的にも、また自然や水路、生態系なども含め建築同士も連携させることで、より多段階で豊かな地域コミュニティを形成できると考えました。

講評
古澤大輔

水路により左右に分けるという形式的な共通点がありながら、敷地の大きさや角度がすべて異なっているのがおもしろいです。ただ、水路はとてもスケールが小さいので、建築の真ん中に通すのは難しい。Site-Dはうまくいっていると思いますが、水路のスケールと敷地に合わせた空間のスタディがあると良かったです。

山中新太郎

Site-A「共生ビオトープ」では水路と関係なく吹抜けが直行方向に抜けています。ボリュームとしては良いと思いますが、水路と建築の関係が提案の要点なので、吹抜けは他の施設と同じ方向で考えた方が良かったでしょう。