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駿優賞
飛田龍佑・福井勇仁|卒業論文
歩行者利便増進道路制度の活用手法-歩行者利便増進道路検討プロセスにおける分岐点と道路占用状況の傾向分析を通じて-
卒業論文

1.研究の背景及び目的

我が国の道路空間では、人口減少や少子高齢化などに伴う厳しい財政事情のもとで、民間投資活用の拡大や公共空間へのニーズの変化により、公共空間活用が展開されている1)。道路空間への新しいニーズに対応するため、国土交通省は「歩行者利便増進道路制度」(以下、ほこみち)を創設した。

ほこみちでは、道路管理者と交通管理者が連携する仕組みが示されている一方で、自治体や民間との連携は現場の運用に任されている2)が、自治体や民間主体となったほこみちの検討及び手法が把握されていない。このため、ほこみちを活用した道路占用が円滑に展開されず、長期的な民間投資活用による道路占用へと進んでいかない恐れがある。

本研究では、ほこみち指定路線における、ほこみち検討プロセスの分岐点と道路占用状況の傾向を調査し、両者の関係からほこみちの活用手法を明らかにする。今後のほこみち活用による円滑な道路占用実施と賑わいある道路空間創出の一助となると考える。

2.研究の方法

2022年8月までにほこみち指定された82本3)の道路管理者を対象にアンケート調査を実施する。アンケート調査の中で「特例区域指定済」かつ「道路占用実施中」と回答した道路管理者については発意、協議・周知、社会実験、交通規制、道路整備などのほこみち検討プロセスにおける分岐点と特例区域指定位置、店舗用途、道路占用の目的、主体、設置物など道路占用状況を把握した。

3.研究の成果

①制度の進行状況による研究対象の抽出

2022年8月までにほこみち指定された82本のうち、特例区域を指定済みの路線が67本であり、道路占用を実施中の路線が66本と回答が得られた。アンケート調査の結果より、「特例区域指定済」かつ「道路占用実施中」に該当する59路線を研究対象とした。

②ほこみち検討プロセスにおける分岐点の傾向

発意では道路管理者が18本と多いが、道路管理以外の自治体が19本、まちづくり協議会が8本となっていることが確認できた。協議・周知では約9割が警察に対して協議を実施していることが分かった。社会実験について、ほこみちを検討した社会実験での道路占用を自治体と民間が連携することで関係機関からの理解を得ていることが分かった。交通規制においては6本の路線で実施され、そのうち5本が許可車を除いた交通規制が実施されているという結果が得られた。道路整備については3路線において実施され、歩道を拡幅していることが把握できた。

③ほこみちにおける道路占用状況の傾向

特例区域は店舗前指定が多く、特例区域に面する店舗用途としては飲食が381件、物販が292件であることが確認できた。道路占用の目的では「賑わいの創出」が47件と多いことが分かった。道路占用主体は商店街振興組合が25件と最も多く、自治体が9件と次いで多かった。設置物に関しては可動式の椅子・テーブルが38件と最も多く、オープンカフェが19件と次いで多かった。

④ほこみち検討プロセス分岐点と道路占用状況の関係

道路幅員に関して、道路整備を実施することで最低限の歩道を確保していることが分かった。特例区域の指定位置は自治体や民間の発意によって歩行者専用道路の店舗前に指定され、ほこみち検討プロセスの実施に寄らず飲食、物販の店舗用途に面して特例区域の指定があることが確認できた。道路占用の目的はほこみち検討プロセスを踏むことで「賑わいの創出」に留まらない多様な目的での占用につながることが読み取れた。社会実験を実施している路線では地域のまちづくりに関わる機関が道路占用主体となっていることが分かった。設置物について、検討プロセスの実施に問わず椅子・テーブルが設置され、検討プロセスを踏むことで事例数の少ないイベントの実施がされていることが確認できた。

図1.タイプ別の道路占用状況の傾向

4.まとめ

本研究では、ほこみちの指定路線におけるほこみち検討プロセスの分岐点と道路占用状況の傾向を調査し、両者の関係を分析した。自治体及び民間主体でほこみちを活用する際、ほこみち活用を道路管理者へ進言した後、関係機関と連携し社会実験を実施するという手法が明らかになった。

図2.本研究で明らかになったほこみちの活用手法

参考文献

1)小林重敬・一般財団法人森記念財団「まちの価値を高めるエリアマネジメント」,学芸出版社 2018年6月

2)国土交通省「道路空間活用を日常の景色に〜道路空間活用勉強会における議論から〜」https://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2021/79_2.pdf

(閲覧日2023.01.24)

3)国土交通省道路局「ほこみち指定箇所 一覧」https://www.mlit.go.jp/road/hokomichi/pdf/ichiran.pdf2022.(閲覧2022.11.21)

4) 国土交通省道路局「『多様なニーズに応える道路空間』のあり方に関する検討会について」https://www.mlit.go.jp/road/ir/ircouncil/diverse_needs/pdf01/04.pdf, (閲覧日2023.01.24)

5)国土交通省道路局「2040年、道路の景色が変わる」https://www.mlit.go.jp/road/vision/pdf/01.pdf (閲覧日 2023.01.24)

6)国土交通省「道路空間活用を日常の景色に〜道路空間活用勉強会における議論から〜」https://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2021/79_2.pdf

(閲覧日2023.01.24)

7)中江拓二郎, 松本邦彦, 澤木昌典「道路協力団体制度を用いた道路空間の活用」,公益社団法人日本都市計画学会都市計画報告集No.18,2020年2月

8) 泉山塁威,宇於﨑勝也「道路占用許可関連制度の網羅的傾向と変遷からみた緩和規定の特徴及び課題―道路占用許可の特例、国家戦略道路占用事業及び道路協力団体制度を対象として―」日本建築学会計画系論文集第88巻 第804号 2023年2月

9) 中川桃花「街路における滞留空間の利用実態に関する研究-姫路・神戸・大阪を対象として-」大阪市立大学大学院 都市系専 修士論文梗概集 2022年2月

10) 国土交通省道路局「ほこみち指定箇所 一覧」https://www.mlit.go.jp/road/hokomichi/pdf/ichiran.pdf2022. (閲覧日2022.11.21)

11) 国土交通省「道路占用に関するコロナ特例について」https://www.mlit.go.jp/road/senyo/covid/11.pdf(閲覧日 2022.11.21)

12) 国土交通省「コロナ占用特例から ほこみち制度へ – 国土交通省」https://www1.mlit.go.jp/toshi/content/001397867.pdf(閲覧日 2022.11.21)

13) 国土交通省ほこみちプロジェクト「ほこみちの始め方」https://hokomichi.jp/logo/(閲覧日 2023.01.24)

14) 国土交通省「立地適正化計画の意義と役割」https://www.mlit.go.jp/en/toshi/city_plan/compactcity_network2.html(閲覧日2023.01.24)

15) 国土交通省「『官民連携まちなか再生推進事業』について」https://www.mlit.go.jp/toshi/common/010000010.pdf(閲覧日2023.01.24)

16)国土交通省「街路・連立・新交通:まちなかウォーカブル推進事業」https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_gairo_tk_000092.html(閲覧日 2023.01.24)