SELECTION
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桜建賞・非常勤講師賞(廣部剛司・三好礼益)
秋山真緩
軌跡構想 -流れの中のわたし-
卒業設計

敷地は新宿駅西口の駅前広場で、現在行われている大規模な再開発の一部のエリアです。坂倉準三が設計した二重螺旋のスロープも、車のための動線から歩行者のための広場へと整備されることになっています。この広場は、かつて学生運動で大勢の人々が集まった歴史があり、大きなエネルギーが集まる場所でした。しかし当時の警察は集会を規制するため広場を通路へと変え、人々が通過していくだけの場所となっています。現在も大勢の人々が利用する場所でありながら、留まることのない混沌とした場所です。
そこでこの広場を舞台に、坂倉のスロープから伸び上がる、駅や町の動線が絡み合うような遊歩道的空間を設計しました。遊歩道上にはカフェやギャラリー、図書スペースなどを挿入し、滞在もできる立体的な広場です。

バスやタクシー乗り場などの交通機関、駐車場、駅の動線を再開発の計画に沿って決定し、そこから平面を導きました。断面としては、今後建つ予定の超高層のビルから降りてくるスロープを設けています。
計画の背景には、加速する社会があります。情報化が進み、ものごとの流れの速さは急激に増しているように感じます。そこで私は「軌跡」に着目し、自分や他人の立ち位置を俯瞰する場をつくることを考えました。軌跡とは、誰かの足跡であったり、動きを体系化するものであったり、普段見えないものを可視化する行為です。何かを知覚し、流れの一部に触れることで時間の連続性を認識し、客観的に他者を把握することで自己を認識することができます。

軌跡の特徴である線と連続性を意識して、動線的な空間をつくります。その動線体が屋根や柱などの構造部材と接続することで、軌跡は空間化されます。坂倉のスロープから想起される円をモチーフとして、平面的に円形スロープを積層させ、それを断面的に操作することで空間をつなげていきました。

軌跡の特徴である線と連続性を意識して、動線的な空間をつくります。その動線体が屋根や柱などの構造部材と接続することで、軌跡は空間化されます。坂倉のスロープから想起される円をモチーフとして、平面的に円形スロープを積層させ、それを断面的に操作することで空間をつなげていきました。
一極集中させずに離散的に小さな広場を点在させて、そこで起きる出来事を第三者が不意に意識してしまうような、関係性が連鎖していくあり方です。

断面

それぞれは道的なものでありながら、コアとしての直線と曲率を描く動線は混ざり合い分岐して、時に大きな広場をつくる構造物となり、整然とした都市の中に動的な広場として現れます。
軌跡の構想が新たな動線や物語が生まれるきっかけとなる建築を提案します。

講評
廣部剛司

人の流れの軌跡から決められた通路は、同時にヴォイドをつくり出しています。設計したのは通路自体なのか、それとも通路によってできるヴォイドなのか、考えさせられました。見えざるヴォイドを意識して設計したことで、通路は内部化されていなくても空間と呼べるものになっています。

塚田修大

再開発で計画されている地上の広場化が歩行者にとっての自由だとすると、上空に複雑なスロープをつくり、移動に多様な選択肢を与えることでもうひとつの自由を上空に上書きしています。新宿の新しいあり方を示すおもしろい提案です。

中村航

これが実現したら、階段と踊り場のみで構成されたニューヨークの「ベッセル」(Vessel、設計:トーマス・ヘザウィック、2019年)のように世界から観光客を集めるでしょう。この過剰さそのものが都市のインパクトになり、グローバルに見ても画期的だと思います。