SELECTION

橋本彩伽|卒業論文
事業所の水災害時の事前対策と復旧に向けた取り組みに関する研究 -2019年台風19号における福島県郡山市の被害を事例として-
卒業論文

1.研究の背景と目的

日本は、気候や立地等の自然的条件から、震災や豪雨等の自然災害が発生しやすい特性を有している。1時間降水量50mmを上回る大雨の発生件数が、1976年から2021年までの45年間で1.4倍に増加しており[1]、今後も気候変動の影響により、水害が頻発することが懸念されている。水害に関する研究について、住民の避難に関する論文はあるが、企業の避難行動に関する研究は行われていない。本研究では、2019年台風19号における被害状況下において、事業所別の事前の対策や復旧に向けた取り組みに着目し、その実態を明らかにすることを目的とする。また、事業所の災害後の対策から洪水災害に対応した事業所の計画について考察する。

2.調査概要

数年に一度洪水被害が発生しており、事業所が密集している福島県郡山駅北側の横塚地区・大町二丁目の事業所を対象とし、当時の避難行動や取り組みについてインタビューを行った。対象事業所は、バス会社、病院、自動車販売店、飲食店、銭湯、総合小売店、薬局の7事業所である。

3.結果

被災後の営業再開について、交通インフラと医療インフラの役割を担うバス会社、病院、薬局では、完全に復旧していない中でも営業再開していたことが分かった。

事前の取り組みについて、7事例中5事例がモノや人を高い土地や上階へ移動させた。また、車両を他の敷地へ移動させる、緊急防災委員会を立ち上げるなどの対策をしている事例もあった。

営業再開のための取り組みについて、7事例中4事例が2階以上や別支店を活用し、復旧作業を行いながら順次営業を再開していたことがわかった。2階以上に十分な面積があった事業所では、復旧作業中の1階の部屋の役割を2階が担うことで、復旧作業を行っている間も順次営業再開できたと考えられる。また、別支店から家具や機器を譲り受け、早期に順次営業再開していた。2階以上に十分な面積がなかった事業所では、別支店の従業員が清掃の協力をしており、被害のない別支店に従業員が配属され営業を行う事例も見られた。

次の災害に備えた取り組みとして、システムの導入、契約、設備の整備があった。バス会社ではバスのスムーズな避難を行うための移動時間を逆算したシステムを導入、病院では災害後も継続して事業を続ける工夫としてBCPの作成を行っていた。契約について、3事例が車両を避難できるよう契約した。バス会社、自動車販売店、飲食店ではキュービクルの高さを上げており、病院では防水壁を設置していた。また、商業施設を運営している事業所でも、施設の西側入り口に防水壁を設置していた。病院、総合小売店では、コンセントの位置を上げていた。

4.まとめ

インフラの役割を担う事業所では、完全に復旧していない中でも営業再開していたことが分かった。事前の取り組みについて、7事例中5事例がモノや人を高い土地や上階へ移動させる、車両を他の敷地へ移動させる、緊急防災委員会を立ち上げるなどの対策をしていた。営業再開のための取り組みについて、7事例中4事例が2階以上や別支店を活用し、復旧作業を行いながら順次営業を再開していたことがわかった。2階以上に十分な面積があった事業所では、復旧作業中の1階の部屋の役割を2階が担うことで、復旧作業を行っている間も順次営業再開できたと考えられる。また、別支店から家具や機器を譲り受け、早期に順次営業再開していた。2階以上に十分な面積がなかった事業所では、別支店の従業員が清掃の協力をしており、被害のない別支店に従業員が配属され営業を行う事例も見られた。次の災害に備えた取り組みについて、バス避難システムの導入やBCPの作成、緊急時に車両を避難させてもらえるよう契約、キュービクル高さを上げるや防水壁を設置するなどの対策が行われていた。以上のことから、各事業所の次の災害に備えた対策や2階以上を活用することが水害に対応した事業所計画になると考える。

図1.事業所の被災・避難・復旧の状況 (写真:筆者撮影)

図2.水害に対する取り組み(写真:筆者撮影)

1)国土交通省 大規模広域豪雨を踏まえた水災害対策検討(2022.2.17閲覧)