SELECTION
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非常勤講師賞(仲條雪・横井創馬)
丘晴通
風待ち港真鶴
卒業設計

真鶴で300年以上続く貴船祭りに着目した3つの地域活性化施設を計画します。
真鶴は神奈川県南西にある港町です。海に向かって摺鉢状に下る地形に建築と自然が広がっており、かつては石材産業や漁業で発展しました。石材運搬船や漁船の停泊地としても利用され、船出の風を待つ港として、多くの来訪者が訪れました。この地域のほとんどの人が海に関連した生業をもち、生業を介した地域コミュニティが存在していました。しかし地域産業の衰退やインフラの整備によって、山側にある真鶴駅や道路を利用して他の地域まで仕事に行く人が増え、真鶴の山側と陸側のコミュニティは分断されてしまいました。
そこで、300年以上続く貴船祭りをこの地域を繋ぐきっかけとして着目しました。貴船祭りは2日間、海側から山側までを神輿が巡航する祭りです。このハレの日に賑わう巡航ルートに着目し、敷地を選定しました。暮らしの機能のなかに祭りの要素を組み込み、貴船祭りを地域にとってより日常的なものへと変化させます。そして地域住民が日常的に貴船祭りに触れることで生まれるコミュニティが、分断された街を繋ぐことを想定し、スケッチを通して得た真鶴らしさを祭りの要素と組み合わせながら、3つの拠点を設計しました。

site Aは、市場や食堂、銭湯からなり、真鶴の住人の生活を補助する役割を担うとともに、来訪者の観光拠点でもあります。地域住民の生活を体験するように来訪者が入り込み、交流が生まれます。2階から3階の大階段や櫓の角度を振ることで、日常的にも貴船祭を意識します。
ハレの日には祭りの観覧の舞台にもなり、貴船祭を支えます。

site Bは、石材産業や漁業からなります。貴船神社に向かう道から伸びた動線や漁業組合から漁師の船に向かう動線、石材産業から辺りを眺める地域動線が、貴船祭りで使用する小早船の倉庫で交差するように構成されていて、地域住民や石材産業、漁業で働く人が日常的に貴船祭りに思いを馳せます。また、祭りが近くなるとアトリエでは祭りで使用する小早船の組み立てが行われます。

site Cでは、斜面を上るように会議室やワークスペース、カフェが配置され、その頂上に貴船祭りで奉納する鹿島踊りや囃子太鼓の練習の舞台が配置されます。周辺の建物にスケールを合わせてボリュームを配置し、屋根形状を海から続く商店街から視線が舞台に向くように傾けました。商店街から感じる踊りの練習風景や、囃子太鼓の音は、訪れた人に貴船祭りを伝承します。
この3つの拠点がハレの日に賑わうだけでなく、日常的にも賑わいを取り戻すことを目指して設計しました。

講評
富永大毅

海辺の過酷な自然環境に対して、壊れても住み継ぐ人が更新していけるように木造部分とコンクリートや鉄骨のフレームなど構造形式を分けているのが素晴らしいと思います。

中村航

真鶴のコンテクストを読み解いていますが、もっと貴船祭りに特化した空間をベースにしたあり方もあると思います。日常とのバランスも大切しながら、地方都市におけるハレの意義をもっと意識しても良かったと思います。