SELECTION
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非常勤講師賞(永曽琢夫・高橋堅・野島秀仁)
杉山陽祐
未完生 -遺り続けるしらひげ-
卒業設計

白鬚団地という既存の団地を用いて、変化し続ける建築を提案します。白鬚団地は墨田区隅田川沿いにある高さ40m、全長1kmに渡って連なる都営団地で、今から約半世紀前、東に広がる木密地域が火の海になったことを想定し、火の手から避難公園を守るために建設されました。
そのため、各棟の間に緑の防火シャッターが備え付けられ、シャッターを下ろすと文字通り一枚の壁となります。バルコニーには非常時の動線となる防災庇が設けられ、そこにはシャッターのみならず、人々を輻射熱から保護する散水用のドレンチャーもめぐらされています。
ある種の過剰さをもった白鬚団地ですが、木密地域の不燃化が進んできたことを鑑みると、今後十数年をかけて防火壁という役割を終え、白骨化していくことが予想されます。メガロマニアックな白鬚団地を近代遺産として記録するうえで、本案では解体を選択します。
解体では、痕跡を残すことで過去へのベクトルが生じること、異なる文脈を並置することで未来へのベクトルが生じることを意識し、過去と未来のいずれにも向けられた断面としての建築を目指しました。

操作としては、空室となった住戸を一部残しながら隣室へ譲渡し、使い手がつくり替えていきます。さらに空室化が進んだ場合は、既存躯体の解体を行いながら、立体公園として開放していきます。
次に、白鬚団地らしさが可視化されたドレンチャーやブリッジ、貯水槽などを適宜解体し、空間の一部として織り込んでいきます。
最後に、立体公園化のタイミングで、既存RCよりもしなやかで木よりも強靭な骨格としてスチールフレームを挿入することで、空間の流動性を高めます。

このような段階的な解体によって、かつての住戸は隣室のバルコニーとして使われ、公園化のタイミングで生じるヴォイドはブリッジを架け渡すことで空間へと転換されます。さらに内包されていたシャッターをスクリーンとして転用するなど「らしさ」はイベント生成の契機となります。
住戸からバルコニーへと転用される際、間仕切り壁やそれを支持していた木、あるいは家具など様々な痕跡を断片的に残していきます。様々な痕跡のコラージュは過去を語ると同時に、次の使い手が空間やイベントを生成する手がかりとなります。

未使用のまま役目を終えようとしている散水用のドレンチャーは、一部を切断しスチールフレームを添わせて空間の内部へ引き込み、緑を育む水脈として活用します。
さらに崩壊が進めば、白鬚が植木鉢化されたシーンや、あるいはただ過去を語る老木のように横たわるシーンなどが絡み合っていきます。

生成と崩壊の間を振幅しながら、痕跡のコラージュとして現れるしらひげは、形式性の崩壊とともに覆われていた過剰さや装置としての側面が剥き出しとなり、空間の一部として時間と共に織り込まれていきます。
しらひげはこれからも未完生な建築として遺り続けるでしょう。

講評
野島秀仁

防火壁団地としての役目を終えた今、団地をどのようなかたちで残すかという視点はとても良いです。一方で、近年は水害の問題が無視できなくなっています。隅田川氾濫時にはこの団地の上部が避難所となるはずで、足元を抜く可能性もあったのではないでしょうか。

下川太郎

白鬚団地が、近隣の戸建てに住む人々にとってどのような存在であるかを考えて解体の過程をデザインすることが、人々の生活に寄与するような新しいプログラムにつながっているとより良かったと思います。