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小野塚涼|卒業論文
水害被災地における再定住のための「能動的再建」の可能性に関する研究 ―長野県長野市長沼地区を対象として―
卒業論文

1.研究の背景と目的

2019年10月に発生した令和元年東日本台風によって河川沿いの地域では川の氾濫により甚大な浸水被害を受けた。本研究では、令和元年東日本台風によって浸水被害を受けた住家に着目し、再建過程において住民が行う能動的な再建について分析することで、現状の制度に縛られないより多様で有効な再定住の手法を見出すことを目的とする。

2.調査概要

調査対象地は、地形特性として2つの河川に挟まれた水害常襲地であり、本災害においても堤防の決壊により甚大な被害を受けた長野県長野市長沼地区とした。本地区では930件を超える住家被害に遭い、被災後の世帯減少率は10%(1)である。

調査方法は、本災害で被害に遭った住民の方5名(CaseA,B,C,D,E)に被災当時の状況や被災直後の行動、また水害被害前後の暮らし方の変化や復興過程で発生した選択や行動についてインタビュー調査を実施。加えて実測調査を実施した。

3.結果

・被災後に転居した事例の能動的再建

被災後に転居した事例はCaseA,D,Eの3つである。

CaseAは自宅の公費解体を決め、みなし仮設へ移動、その後災害公営住宅へ入居している。今回の公費解体制度では部分解体が出来ない。しかし、母屋とは基礎の異なる部分があり、その部分だけなら母屋と切り離すことで残すことが出来たため、自力で切り離し、自宅一部を部分的に残しており、土地も残している。これによって、次の世代がこの土地や残った部分を活用でき、この地に戻ることが出来る可能性を残している。

CaseDは自身3度目の水害であったことから被災後長野市内へ転居したが、元の地区に根付いている職を継続させる必要があり、補助金を利用してコンテナを借り、その後コンテナを購入し職の拠点として現在に至る。

CaseEは被災後に長野市内へ転居をしたが、将来被災した際のセカンドハウスとして、長沼の土地も残しており、そこに応急仮設住宅として利用されていたトレーラーハウスを中古で購入し設置している。また土地を残し第2の生活拠点を構えたことで、長沼での交友関係も継続している。

・被災後に自宅へ戻った事例の能動的再建

被災後に自宅へ戻り再建した事例はCaseB,Cの2つである。

CaseBは自宅へ戻るが、自宅の改修に回す補助金がなかったことから、避難所から貰ってきた畳を入れることや生活する上で必要な箇所のみを部分的に改修し生活を再開している。

CaseCは、被災後すぐに自宅へ戻り、片付け解体作業をしながら生活を始めているが、保険等による資金調達が上手くいかなかったことなどから、0ベースで住まい方を考え直し、家具の選定や物の使い方などを工夫するなど小さい単位で改修を行っている。

図1.被災前後の住まいと再建の状況

・復興プロセス内における能動的再建の介入

CaseA,D,Eは被災後の生活拠点が元々の土地を離れており、公費解体によって自宅を失いますが、部分解体の出来ない公費解体制度の中で手を加えて自宅の一部を残すことや補助金を利用してコンテナやトレーラーハウスを設置し、元の土地に新しい用途機能を設置する土地の再利用によって地区や交友との繋がりや職の継続を行っている。CaseB,Cは現在も自宅に残っており、補助金を利用しながら壁や床を剥がして乾燥させるなど自力改修を行っている。しかし思ったように資金調達は出来ていないため、家具の選定や物の使い方を考え直す小さい単位での改修によって水害時と日常との両立を図った暮らし方を行っている。また避難所から貰ってきた畳を入れて部分的な改修を行うなど小単位での改修を積み重ねることで乗り越え、自宅での生活を再開させている。

本研究での「能動的再建」定義は、行政の与える支援策を補填し、さらに住民の自主的な行動や意図が伴う再建行動とする。

図2.復興プロセス内の能動的再建の介入

4.まとめ

行政の支援制度は、仮住まいや解体支援において最低限のセーフティーネットとして整備されている。しかし、再建過程において住民の望むことは様々であり、再建活動における行政支援は不十分である。そのため行政による公的支援の他に自力の及ぶ部分的、小単位での再建を住民自身が能動的に行うことで、行政からの支援では足りない部分を補填し、住民の要望を満たせる可能性があることが分かった。

そのことから被災後の再建活動において、住民が自主的に行動する部分的、小単位での能動的再建が重要である。また、能動的な再建手法は様々であるため、住民がどのように再建を行っているのか調査し、記録することによって再建手法の多様化を図ることで、今後の再建活動の知恵として活用されると考える。さらに能動的再建として扱われた手法が、今後行政が与える支援策となることで再建活動の水準が向上する可能性がある。

5.参考文献

1)長沼歴史研究会:千曲川堤防 決壊 長沼の災害記録(閲覧2022.3.31)