SELECTION
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駿建賞
曹余波
蘇州古城壁再生計画
修士設計

蘇州古城区は中国の東部に位置し、かつては中国最古の城壁が存在した水郷都市として知られています。現在の古城区では都市化が進んでいますが、建設用地の不足から交通渋滞などの都市問題が顕在化しています。公式データからも、古城区で新しい都市用地を開拓することは急務です。
そこで私は、かつて都市の周辺に存在した巨大な城壁に目を向けました。蘇州城壁は長い歴史を持ち、多くの戦争をくぐり抜けてきました。しかし、1950年代に城壁はほぼ取り壊されてしまいます。近年再建作業が始まりましたが、依然として断片的な分布に留まります。本研究では、蘇州城壁を過去の形状に復元して、新しい都市機能の器とします。それにより、建設用地不足による古城区の一連の問題を緩和し、都市開発を促進することを目的とします。
まず、城壁の現状を調査しました。2009年の城壁の実測図に再建された城壁のデータを追記し、現在の地図と重ねることで、古城壁を含む4種類の城壁タイプからなる、現在の城壁状況図を作成しました。

次に、現在の古城区の交通、建築用途、建築制限に関する文献調査を行いました。交通面では、運河システムと道路状況、公共交通を考慮しました。建築用途については、文献と地図を参考にして建築用途分布図を作成し分析しました。周辺部に近いほど住宅の比率が高く、商業などの公共サービスの比率は低くなることがわかります。そのため新しい城壁は、隣接する住宅地のニーズに応える機能として計画する必要があると考えました。

分析にあたり、古城区全体の城壁平面と断面形状を復元しました。城壁の平面輪郭線と軸線は歴史地図資料から引用して、運河の位置を基準に現在の市街地の地図と重ね合わせ、城壁の平面復元図を作成しました。同じ場所の写真と図面を比較して、一部城壁の平面輪郭が正しいかどうかも検討しています。

次に、現在の街区における機能分布評価です。評価方法は、各街区の宅地面積に対する各種の用地面積の比率を算出し19街区のデータを平均して、変動と平均値を比較します。そして街区それぞれで付加する必要のある都市機能を判断します。例えば1号街区は、明らかに商業用地の面積比率が平均値より少ないため、補充機能として商業施設を城壁建築に入れるよう計画します。
最後に城壁断面分類をまとめました。当時の城壁と都市の関係はすべての場所で同一に見えますが、現代では都市開発により城壁そのものが別の状態で存在していて、都市条件も当時とは異なります。そこで当時の城壁部分と運河の関係を原型0として、45タイプの現代城壁と都市環境の断面関係を導き出しました。

計画方針は3つのタイプに分類しました。Type-Aはそのままで保存。Type-Bは部分的な機能の調整または追加。そしてType-Cは完全な再計画です。

城壁の機能計画は、機能分布評価結果から現在の城壁周辺の実態を分析し、復元した城壁の輪郭線に具体的なゾーニングを行い、対応する城壁部分の機能を再計画します。
その後20カ所を選んで、断面の設計を行いました。断面分類と参考事例から特定の環境条件に応じて、10種類の断面設計手法を挙げました。

B

Bは城壁が道路と重なるため、クロスオーバーという手法による歩道橋をつくります。

D

Dは城壁の上半分を削除した江南民家の特有の中庭景観をもつ文化交流施設です。

E

Eは商業施設として計画し、建物の2階から運河を渡って外部都市とつなぐ橋を追加しました。

F

Fは連続的な動線をもつ図書館で、部分的に構造を延長し、既存城壁とつないでいます。

H

Hは学生寮の部屋をひとつ分使い、城壁とつなぐ経路をつくりました。城壁は学生のシェアスペースです。

K

Kは半分が川の上にあるコミュニティ施設です。独特な吊橋のような外壁を通じて運河の両側の宅地をつなぎたいと考えました。

M

Mは運河の上にある歩道橋で、内部はガラスキューブがびっしりと並び、城壁のボリュームを満たしてしています。

N

Nは現在の都市公園に追加した桟橋をもつ展望施設です。

O

Oは城壁の形を復元せず、形跡の中に土塁の積層を展示する特殊な展示施設です。

P

Q

PとQは古い住宅団地の建て替えではなく、城壁を利用して部分的に機能を追加・調整します。

私は蘇州市民ですが、城壁の存在について関心も知識もありませんでした。形式の欠落により地域の歴史的記憶が欠如することは非常に悲しいことです。中国は長い歴史のある国で、常にその継承を心がけなければなりません。現在、城壁の再建が進められている都市は多くありますが、昔の形式を尊重するだけではなく、歴史的な建造物が現在の都市に何をもたらすかを考えることが、城壁再建の新しい考え方となるはずです。

講評
古澤大輔

複数の短手断面から計画が断片的に見えてきて魅力的ですが、もっとポシェ的なものでも良かったと思います。全体像がわからないので、それぞれの部分を相対的に検討されたのか疑問が残りました。

重枝豊

現在の中国ではスクラップアンドビルドを繰り返していますが、中国の方がこうした原理的研究をすることが、その流れを変える第一歩だと思います。デザインはもっと工夫があると良かったです。