SELECTION
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吉田鉄郎賞
保坂友哉
特別教室をネットワーク化した小中高一貫校の提案 -板橋区高島平地区を例として-
修士設計

現在、小中高一体型校舎の施設計画について明確な指針を確立した事例はありません。本計画では、小中一体型校舎・中高一体型校舎における問題点・課題を分析し、小中高一貫校の一体型施設を計画します。
一貫校は主に連携型、併設型、完全型(義務教育学校、中等教育学校)の3種類に分類されますが、本計画では併設型を考えます。施設の配置パターンは、すべての学年が一緒に活動ができる一体型校舎を計画します。
現在、国内に小中高一貫校は185校存在しますが、一体型校舎は4校のみであり、そのすべてが断面的にゾーニングされ、学年ごとに領域が分断されています。また児童数の減少により統廃合が増加しており、今回の敷地はその跡地を利用します。
ネットワーク化した特別教室を中心に、平面において各学年の領域が混在する完全一体型として、生徒が特定の場所に留まることなく、流動的な活動を行うことを目指します。

配置

計画敷地は板橋区の高島平3丁目の都立高校がある敷地です。昭和40年代以前は「赤塚・徳丸田んぼ」と呼ばれる広大な水田地帯が広がっていましたが、街の誕生から45年以上が経過し、団地や同時期に整備された公共施設等は老朽化が進み、今回統合を行う小学校・中学校・高等学校もほぼ同時期に建設され、耐用年数も概ね一致しています。板橋区教育員会はこれら施設の更新時期を15年以内に行う計画を発表しました。また本計画敷地は「高島平グランドデザイン」という再開発計画により、区立施設を中心に公共施設を集約複合化し、都市再生を行うことが明記されています。板橋区の小中一貫推進活動である「学びのエリア」でも、本計画で統合を行う四校は「みどりの学びのエリア」に指定され、近い将来、このエリアは学校施設を中心としたみどりの街づくりが行われると想定し計画を始めました。

学年ごとの空間計画では、教育や生活の指導計画を設け、それに対応した教室の形態変化や全体のゾーニングを行います。小学1年生と2年生は特別教室型、小学3年生以降は教科教室型となります。屋外空間や中庭を活用した環境教育を目標とします。
中学1年生、2年生、高校1年生は部活動に力を入れている高島高校の特色を引き継ぎ、部室棟に近い西棟にゾーニングします。中学3年生、高校2年生、3年生は進学を意識した学習環境とするため、地域図書のある東にゾーニングを行います。教員は、専門科目エリアに配置された教科教員室を拠点とします。生徒だけではなく、教員も過ごしやすい環境をつくり出すことが必要だと考えます。

校庭を中心にボリュームを分割して配置し、各ボリュームにヴォイドを設けます。ヴォイドは特別教科に対応した屋外空間となります。さらに周辺のボリュームに馴染むように外部空間をつくります。武蔵野台崖線・赤塚公園の緑を取り込んだ丘のような建物を目指しました。

地域開放を目的とした諸室は計画敷地の外周部に、内側には普通教室などを配置します。中庭に面した特別教室が全学年の共用部となり、ひだ状の壁は地域と学校をつなぐ中間のエリアとなり、フェンス・セキュリティの役割も果たします。地域施設には、高島平デザインセンター(TDC)拠点施設・コミュニティセンターを併設し、都が計画する多世代交流や子どもを健やかに育てる場として学校施設を活用した街づくりの実現を目指します。

特別教室に面して、主に3つの中庭を計画します。図工室・工作室に面した「創作の庭」は、工芸のための庭で加工を行うことも可能です。美術や図工の作品が展示され、教室を超えた刺激を得ます。生物室と隣接した「生態系の森」では、四季の移り変わりを意識させる植栽の選定やビオトープを計画し、自然と触れ合います。家庭科室と調理室に面した「食育の庭」では、この地域で栽培・育成されてきた植物や学年の区切りである 3〜4月に収穫・種まきできるものを選定し、食材とします。

壁の凹凸エリアには専科のコモンスペースや特別教室、地域スペースを配置します。小学校と地域施設を隔てる壁は、カーテンなどの可動式の設えとし、放課後や休日などの特別教室が生徒に使用されていない際にその扉を開きます。
このひだは断面にも展開され、吹抜けを介して校内の様々な活動が縦横に広がっていきます。地域住民が利用するメディアスペースや独立性のある普通教室など、質の異なる学びが展開します。生徒が互いの活動を垣間見て、偶然の出会いが生まれることを意図しています。

3階平面

2階平面

1階平面

断面

断面

教科教室エリアには、専門科目教員室を計画します。教室と隣接することで、生徒は気軽に先生と話し合うことができ、この余白のような専門科目コモンは生徒の居場所となります。同様に教室と隣接した専門科目のコモンや図書には、授業の空き時間などに多くの生徒が訪れます。専科図書は科目ごとに配置され、学校全体が図書室のようなつくりとなります。

部室棟には、中庭からの光が差し込みます。南棟の道路周辺は高い柵で閉ざされた裏側でしたが、外周部に地域施設が複合されることで表側へと変化します。正門では、かつて水路がたくさんあり、現在も暗渠の多いこの地域の特性を活かし、学校のフェンスの役割をもたせた川を計画します。

ボリュームのずれが生み出す屋上のテラスでは、菜園やオープンスペースを計画し、様々な活動が交差します。デッキでつながれた外部空間は回遊を促し、行事の際にはテラスが観客席になります。プールは地階に配置し、天候に左右されず授業を行うことが可能です。

本計画では、特別教室をネットワーク化することで領域の混在を実現しました。自分と違う人がいることや、教室外からの刺激を肌で感じることにより、より良い発達を目指し計画を行いました。