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加藤史晏|卒業論文
グラフィティを通した都市観察に関する研究
卒業論文

1.研究背景・目的

グラフィティ文化は、公共空間に自らの「名前」を拡散的にかき残していく営み1)であり、現在、グラフィティにおいて注目されるのは、逸脱行動、破壊行動として扱われる側面と、芸術として扱われる側面である。

本研究の目的は、落書きという行為の派生であったグラフィティが、なぜ文化として発展し、ここまでの強度を持ち得たのか、誕生からコロナ禍を経た現代までを通して、現代のグラフィティの特徴を明確化することである。その特徴を把握することで、都市の景観を観察する際に、新たな時間性、身体性を得ることができる。

2.研究概要

グラフィティを評価するため、2018年から23年までに撮影した2,590枚の写真から、東京を中心とした路上で得た事例の観察から導きだされるライティングを読み取り、ライターのインタビューなどと照らし合わせ、特徴をまとめる。

3.研究結果

観察したグラフィティより、以下の特徴を見出すことができた。

 

A グラフィティの持つ属性

グラフィティには、そのレターがかかれた年が推察できる場合がある。「年度.」などの形式でかかれており、判読可能な字体をとる場合が多い。

B 都市における色彩感覚

インタビューでは、銀や黒でかくことが多いと述べており、東京の景観に対してライターは無彩色という意識がある。目立ってはいけないという感覚からも、グラフィティを景観にカモフラージュさせるのが自然である。

C 支持体の自由さ

インタビューでは、シャッターは塗料定着面の流れであるフローが出ると述べていたが、どんな材料であろうとかいており、支持体の段差や、素材の違う支持体の境界線を横断いることがわかる。

D 攻撃性、動物性、廃墟

繫華街などの人々の動物性が高まりやすい場やグラフィティの密集している場では、他のライターより目につくように攻撃性を増す。解体へ向かう廃墟は、ライターたちの実践場であり、監視カメラを意識せずにかける練習の場でもある。

E 身体性

観察する限り、時間制約を持つグラフィティには、身体的痕跡が残される。想像を働かせながら観察すれば、そこに身体的痕跡が見つけられる。

F 反復性、拡散性

同じタグ、スローアップを街中に拡散し、有名性を獲得するために、グラフィティは常に反復性を持つ。

G 更新され生まれる時間性、身体性

グラフィティやエクスティングイッシュをライターや清掃者の痕跡と捉え、変化や生態系を観察することにより、都市観察の新しい尺度となる。

H かき換え

グラフィティはからっぽの記号により、支持体の記号や文字の機能自体を上書きする。拡散のイメージから地図にかく事例や、ブランドロゴにオーバーする事例が頻繁に見られる。

I エコーする街のイメージ

かき残されたグラフィティの中には、街のイメージと共振を起こすものがあり、反復性や拡散性とは異なる強度を手に入れる場合や、周辺環境と揺らぎのような状態を起こす場合がある。

 

グラフィティをかく際の歩行速度や移動手段を伴う身体性、グラフィティがオーバーまたは消される都市における更新性は、グラフィティからの反射により、街を読むライターの身体性、時間性を得ることができる。そして、グラフィティが身体の痕跡という前提を持つため、それらを観察することで、新たな身体性、時間性を得ることができるのである。

観察したグラフィティの特徴(筆者撮影)

4.まとめ

グラフィティは、からっぽの記号である状態から、差異により都市の記号を解体させており、メディアをも支持体として、ヴァイラルに世界各地に広がっていった。

グラフィティ文化が日本において評価を受けるのはポストグラフィティ的側面である。選択肢が増えても、グラフィティがゲリラ的に公共空間で行われるという構造は変化しないというライターが多い。

本研究では、グラフィティを観察することにより、同じ場を継続的に観察すること、異なる移動手段や街の歩き方など等、視覚からライターの身体性、時間性を得た。

5.参考文献

1)大山エンリコイサム:アゲインストリテラシー グラフィティ文化論,LIXIL出版,2015.1