SELECTION
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駿優賞
長谷川侑香
代々木の森に積層する記憶
卒業設計

敷地に選んだ代々木公園は、歴史とともに変遷してきた多様なコンテクストをもつ公園です。代々木公園の歴史を紐解くと、大きく分けて4つの時代があります。1909年から陸軍の練兵場として使われた時代、戦後アメリカに接収され米軍宿舎であるワシントンハイツが建設された時代、1964年に日本に返還され東京オリンピックの選手村となった時代、そして1967年に開園した現在の代々木公園です。
代々木公園は日本の激動の時代を見守り、ともに変化してきたメディアであるともいえます。そこで歴史の補助線を立ち表し、それを建築や空間にすることで、過去の記憶を顕在化することを試みます。
具体的には、各時代の地図をもとに敷地内の通路を抽出し、その道の規模や重要度を反映させた補助線を導きます。そして各時代から抽出した補助線をひとつの地図にまとめ、それらの線を公園内の通路とします。各時代が重なり合う部分は、トイレや休憩所としたり、操作を加えて形態を浮かび上がらせました。

また、4つの時代に対応した建物をひとつずつ公園内に建て、補助線をもとに配置を決定します。
練兵場時代に対応したギャラリーは、当時の抑圧からの解放を意図して、自由に自己表現のできる場です。直線の壁は抑圧状態を、曲面の壁は抑圧からの解放、自由を表していて、中央部の円筒の空間には上部から光が注ぎます。

ワシントンハイツ時代に対応した、野外ステージです。当時ワシントンハイツのアメリカ人と日本人の交流は叶いませんでしたが、この階段状の野外ステージでは、壁に隔てられながらも向こう側が感じられます。ステージが行われない時は人々が憩い、交流する場となります。

オリンピック選手村時代に対応して、図書館を設計しました。オリンピックでは世界各国から選手や観客が集結します。しかし近年でも、文化や人種、宗教が異なる人々の間で差別や対立が存在しているのは事実であり、自分と異なる他者について理解し、学ぶ場としての図書館を考えました。

最後に、代々木公園に対応する、祈りの場を設計しました。普段の生活のなかで自己と向き合い、他者に祈りを捧げる機会はあまりありませんが、明治神宮に隣接する代々木公園の地だからこそそのような場所がふさわしいと考えました。長いアプローチを抜けた先には、外部からつながる水盤があり、スリットから光が降り注ぎます。

各時代に対応する建物や、歴史から導き出した補助線、形態の集合体が過去の歴史や記憶を想起させるものとなります。そして訪れた人々は、この土地に積層された記憶を感じ取り、これからも新たな時代の記憶が積層されていきます。

講評
塚田修大

史実から形態生成のための補助線を導いています。その補助線の妥当性は様々な評価があるとしても、この線の重なりから生み出された空間はとても良いデザインです。単純に建物だけでなく、離散的な独立壁など色々な建築要素も立ち上げていて、それらも利用した空間のつくり方がうまいと思いました。

高橋堅

結果的に多面性をもっていて、正面性がない色々なタイプの建築が生まれていることがおもしろいです。プランもうまくて光の取り入れ方にも可能性を感じますが、プレゼンテーションとして表現されていればなお良かったと思います。