LECTURE

Super Jury 2021 ショートレクチャー
秋吉浩気(VUILD)
REPORT

芝浦工業大学の学部2年生だった時に、最初の住宅設計課題でグニャグニャした提案をつくり、エスキスで「奇をてらうな」と指摘されてから、設計課題をドロップアウトした過去があります。ですので、皆さんにはそういう人でも建築設計を生業としていけることを知ってもらえればと思います(笑)。
大学院は、慶應義塾大学・メディア研究科の研究室に進みました。自分で設計から施工までをひとりでやることに魅力を感じていて、大学院では、3Dプリントなどのデジタルファブリケーションの機器を扱っていました。何か新しいことをやれば食べていけるだろうと漠然と考え、修了後すぐに開業しました。
数カ月間仕事がなかったのですが、今日一緒にいる西田司さんから公共空間で遊ぶための家具をつくる仕事をいただき、キャリアをスタートしました。独立して6年、起業して4年になりますが、仕事は家具から建築へと徐々にスケールが大きくなっています。
会社を立ち上げてからは、CNCルーターを世の中に広めていくことを考え、「中央集約型の大量生産から、地域分散型の個別生産へ」というテーマで事業を進めています。具体的にはShopbotという機械を、木材の生産地に導入する活動で、現在80カ所にインストールしています。大学などにもありますが、ほとんどは木の流通の問題や人手不足の問題などを抱える中山間地です。どんな地方でも、その場所で生産された木材を使って、地元の人が家具や建築をつくれるような、「生きる」と「つくる」がつながる社会を目指しています。
また、誰でもデジタルファブリケーションの機械を使えるように、「EMARF」というシステムをつくりました。ウェブサイト上に3Dデータをアップすると、金額、納期、生産場所を自動的に教えてくれます。大学の研究室や、独立したての建築家をはじめ、様々な人がこのツールを利用してくれています。

これらの活動は株式会社として、資金調達をしながら進めています。VUILDでは、建築設計事務所として建築を設計するだけではなく、社会のプラットフォームをつくりたいと思っています。生産の基盤を着実に広げて、そのうえで自分自身もつくり手として、その基盤を最大限に利用して何ができるのかを考えています。横浜にある自社工場に大型加工機を設け、自分たちが率先して事例をつくるために複雑な空間にも取り組んでいます。
「六本木のスタジオ」(2020)では、音環境をシミュレーションして、空間を最適化しています。部材の組み合わせはジョイントのルールだけつくり、プログラミングによって反復的に全体を構成しています。

「まれびとの家」(2019)は、着想から竣工まで1年半ほどで、クラウドファウンディングで1,000万円ほどの資金を集めてつくったものです。敷地の富山県南砺市にある集落は、空き地や空き家が多く、地域の木材も豊富で、あとはやる気さえあれば家が建てられるという可能性を秘めた場所でした。ここでも、主に設計しているのはジョイント部分です。部材を単純に反復することで家が完成するシステムをつくっています。グッドデザイン賞の金賞をいただきました。

撮影:太田拓実

最近では、こうした仕事の引き合いが多くなってきていて、住宅事業「Nesting」を本格的に始めました。現在、15棟程が進んでおり、同じ仕組みを使って取り組んでいます。私たちは模型をつくらず、実物大のモックアップを工場内に建てて、板金などの仕上げなどもその場で職人と一緒に検討していきます。事前に擬似的な現場をつくり、物そのもので考えるということをしています。北海道で上棟したばかりの事例では、骨組みとパネルのはめ込みによって躯体工事が約3日で完成しました。他のプロジェクトも、広大な土地、寒暖の厳しいところ、崖地などで進めています。

中規模スケールの建築の仕事も多くなってきました。「学ぶ、学び舎」(2022年竣工予定)は、ユニットを反復することによって増築が容易に行えるような提案をしています。平面計画、施工方法、環境解析、構造解析が同時に行えるシステムの設計を試みています。パラメータをプログラムに落とし込み、変数を変えると材料の枚数や歩留まりなどがすべて出るようになっています。自分たちの手元で効率的な形態を探し、工期とコストを適切にコントロールできるというものです。コンクリートの型枠がそのまま建築になるので、コンクリートスラブの厚みは最小限にすることができます。型枠が内装仕上げも兼ねているため、使用する材料も最小限で済み、ゴミも少なくなります。コロナ禍の影響があり、当初約1,500㎡だった計画を約300㎡に縮小したものがようやく着工します。プログラミング開発のような手法を、建築設計にも応用するという取り組みです。

来春出版予定の単著『メタアーキテクト−次世代のための建築』では、今後の展開を含めて執筆中です。議論の土壌を共有していきたいと思っているので、興味のある方は手に取ってみてください。
[2021年9月25日 @日本大学理工学部建築学科]