LECTURE

Super Jury 2022 ショートレクチャー
馬場兼伸(B2Aarchitects)
REPORT

私は日本大学の出身で、大学院修了後にメジロスタジオを共同設立して11年間活動しました。2013年からは個人でB2Aarchitectsを設立し、現在に至ります。事務所名は、名字である馬場(Baba)にも由来しますが、それ以上に「A面とB面」を意識しています。かつてのレコードやカセットにはA面とB面があり、A面はマーケティングに基づいたキャッチーな曲が、B面にはアーティストの内面を表現したものや実験的な曲、制作過程の副産物などが収録されていました。私は建築にも「A面とB面」があって、両方にまたがっていることがおもしろいと感じています。実は今年から東京工業大学の博士課程に在籍していて、みなさんと同じ学生でもあります。この建築のA面とB面について、「他律性」というキーワードで研究をしています。

今日は3つの近作についてお話しします。
「東松山農産物直売所」(2015)は、地元の産品が売買される場なので、規模や用途だけではなく材料の面からも建築を考え、地域産材の架構でつくることを考えました。ただ、地元の林業の状況を調べると、実際には120mm角以下の住宅の小さな柱材しか流通していませんでした。そこで構造家の多田脩二さんに相談して、120mm角の柱材だけで全てを構成できる架構のルールを考えました。

まず平面全体に1,820mmピッチで柱を置き、それを抜いていくというスタディをしました。特に売り場は広さが必要なので、柱をたくさん抜かなければなりません。難しかったのは、梁材も120mmという制約があることです。そこで方杖を設けたり、重ね梁のようにしたり、深さの異なるトラスを組んで様々な広さに対応する方法を考えました。またこの角材を群れとして力強く見せるために、梁までの高さを柱間の倍寸法とし筋交いをKの字型として斜材の角度を統一しています。

材料の都合が建物の形の決定に影響するのは本来当たり前ですが、現代では建設技術や流通の進歩によって、前面に出てこなくなっていて、建物の使用者や発注者と設計者は用途を頼りに対話します。ここでは材料の制約をうまく整理し運用することで、様々な関係者と用途にとどまらない豊かな対話ができました。

「本町の部屋」(2016)は、築40年ほどのマンションの一室の改修です。千葉県の郊外に建つ3LDKの部屋を賃貸で運用したいという要望でした。郊外のファミリータイプを、売却や自身の居住目的ではなく運用するというのは不動産的に珍しいらしく、事例があまりありませんでした。予算も約200万と限られていたので、ひとりやカップル、3・4人のシェアで住んだり、アトリエや仕事場にもなるような、使い方の選択肢を最小限の手数で増やそうと考えました。

平面は、共用部をなるべくコンパクトにして個室4部屋にも区切れるように、キッチンやトイレは回転して向きや動線を変え個室化しても機能するように調整し、間仕切りは建具の転用と長押を飛ばして簡単につくれるようにしています。ただ、それだけだと既存のLDKという形式がまだ強く残ってしまうので、そのまとまりをほぐすために、巾木と廻り縁を操作することにしました。

通常、巾木や廻り縁は個室の境界に沿って設けられていますが、ここではその際で壁を僅かにずらし、その隙間に巾木や廻り縁が途切れず伸びることで、境界が個室の単位を超えて存在するように感じさせます。部屋ができた後、最後に取り付けられる「負け」の部材としてではなく、部屋という存在にこれらが「勝つ」状態をつくっています。内覧会でこの部屋で起きている現象に気がついた一般の方は稀でしたが、ひとり暮らしからカップルまで、うまく住みこなしている方はこの気持ちよさに気付いてくれているのだと思います。

「愛菜館の転換」(2022)は、滋賀県近江八幡市の琵琶湖近くにある小さな直売所です。最初は手前の小屋の建て替えでお声がけ頂いたのですが、施主の社長さんの、今では売り上げの阻害要因になってしまったけれど「みんなでお金を出し合ってつくったんや……」という呟きから実は重要なものであるとわかり、これを壊さずに進めることを提案しました。
調べたところ、建物は何度も増築を重ねていて、いずれも眼前の課題に対して応えたアドホックなものでした。今回も、この系譜に乗るのがおもしろいのではないかと、改修の方針を定めました。
まず閉鎖性の原因と考えられた小屋の切妻屋根を取り外し、ひっくり返してV字型の屋根にして、新しく束立てした上に載せました。駐車場側と奥のテラスには、V字型屋根に合わせるようにして新たな屋根をつくっています。建物全体が明るくなり、お店の看板であり、前庭でもあるような場所が生まれました。

私は建築をひとつの出来事として考えるということを意識して活動しています。求められた結論に最適解を提示するだけではなく、そのための道筋や手法も含めて考えていくことに可能性を感じています。
[2022年10月1日 @日本大学理工学部建築学科]