LECTURE

Super Jury 2021 ショートレクチャー
西田司(オンデザインパートナーズ、東京理科大学理工学部建築学科准教授)
REPORT

建築の設計をしたり、まちづくりに関わるなかで常に心がけているのは、「実験的な思考で物事に関わる」という姿勢です。正解を見つけようとするのではなく、色々な事柄を深掘りしていくと違うものに辿り着けるのではないかという予感があります。最近興味を持っているのは「スロー」です。コロナ禍によって、自分の生活を見つめ直す時間が増えました。オンデザインの事務所には、バイオフィリックデザインの観点から植物を沢山育てています。昨年は全員がリモートワークという時期があったため、植物を管理する人がいなくなり、私が水をあげるためだけに通勤していました。その時の感覚はなんともおもしろかったです。

オンデザインパートナーズのオフィス

「スローアーキテクチャー」として、東京の日本橋に計画したオフィス「TOKYO MIDORI LABO.」(2020)があります。働く床面積と外部空間を設計しており、植栽を計画し、オフィスで働くことと生き物の共存を目指しています。この建築が起点になって、街の緑の維持管理もしていく計画となっています。

撮影:鳥村鋼一

「江ノ島ヨットハウス」(2014)は、海を眺めたりヨットを管理したりする施設で、人が集まれるようなシンプルな空間を計画しました。機能や予算をもとに建築をロジカルに立ち上げていくことも大事ですが、ここではコンクリートの一体成型でつくっていて、材料や光など、建築を通じてつくられる場の感覚を重視しました。

撮影:鳥村鋼一

「まちのような国際学生寮 神奈川大学新国際学生寮・栗田谷アカデメイア」(2019)は、自分たちがほしい場所をつくるというコンセプトで、学生と対話やワークショップをしながら設計をしていきました。ハンモックで昼寝をしたり、留学生が日本で発見したものをメッセージとして残したり、自身の国から持ってきた遊び道具をシェアしたりといった、小さな事柄を手がかりに、22あるリビングをすべて違う形にしています。つくり上げていく過程も含めて、使い手と一緒に考えることで、建築が場所に定着していくのではないかと思います。

模型

撮影:鳥村鋼一

「スローストリート」ということも考えています。パリのアンヌ・イダルゴ市長が2020年に打ち出した「15分都市構想」は、徒歩または自転車で15分圏内に、生活に必要なものがすべてあるというような都市像です。自動車だけでなく自転車や乳母車が通っていたり、店舗が軒を連ねるなかに、少し立ち止まって憩えるような場所があるようなストリートです。「みなと大通り及び横浜文化体育館周辺道路の再整備計画」を日建設計シビルとカナコンとの共同企業体で取り組んでいます。整備が完成するのは3年後ですが、まずは期間限定の社会実験を行いました。道路上や交差点の中に木のデッキをつくり、憩うことができるような場所をつくりました。

撮影:加藤甫

天気や気温、時間帯によってどのような人々がこの場所を利用し、何を感じているのかを調査し、そこからあるべき公共空間を考えていこうとしています。スローに考えていくことで、様々な人の知恵や経験が持ち寄ることできるのです。
最近は「mt art project」(BankART KAIKO) という展覧会に向けて、マスキングテープを使って都市をハックする試みをしています。建物や街路の一部をデコレーションすることで、くすっと笑えるような場所をつくったりすることを考えています。Instagramに「オンデザイン マステ部」というアカウントをつくっているので是非見てみてください。
[2021年9月25日 @日本大学理工学部建築学科]