LECTURE

Super Jury 2023 ショートレクチャー
伊藤暁(伊藤暁建築設計事務所主宰、東洋大学准教授)伊藤暁(伊藤暁建築設計事務所主宰、東洋大学准教授)
REPORT

「太い柱」をキーワードに、大学での研究と設計業務に取り組んでいます。例えば、東大寺南大門など、日本の歴史的建造物は柱がすごく太いですよね。この太さが地震が起きたときの水平方向に抵抗力を発揮していました。

 

しかし、明治維新以降、建築が近代化していく中で、柱に水平力を期待しない木造構造へ変わっていきました。ただ、構造家の増田一眞さんは柱の曲げ抵抗に期待するだけで、最小限の架構で成立するとおっしゃっています。つまり、今の木造架構は、木材の性質とか能力を十分に引き出しきれていないのではないかという問題意識が私のなかにあります。

WEEK神山 / WEEK Kamiyama 木造建築特有の筋交いや耐震壁によって眺望を妨げないよう、350Φの丸太柱を用いたラーメン構造とし、柱材は町内の山林から伐採した。 2015/徳島県名西郡神山町

現代の技術でもう1度、木材の性質を最大限に引き出す架構を考えようというテーマで木造設計に取り組んだ事例を紹介します。

 

「WEEK神山」という宿泊施設では、丸太を使ってラーメン構造を組みました。こちらは横浜にある木造二階建ての宿泊施設。300×300角の柱を使って、XYの両方向に対して柱だけで荷重を支えるという木造架構を考えました。

太い柱/戸塚の社屋

 

2023/横浜市

曲げモーメントを伝達するラーメン構造は、柱梁の接合部が剛接合となっている必要があるのですが、、木造で剛接合作るのは難しい。そこで接合部をピン接合にしてトラスを組むことで三角形が固まってくれて、水平力を柱に伝達できるという架構を作りました。これは、特許を持った技術など使わずとも汎用的な技術のみで作れます。

 

トラスにすると普通の梁より幅が出るので、その隙間を設備スペースに使ったり、屋根からの日照負荷を軽減する空気層に使ったりと、環境性能を向上させることもできました。

 

また、トラスにすると梁成がすごく出るので、梁の上弦材と下弦材のどちらに2階の床を乗せるかという選択ができます。写真のように梁の下弦材に床を乗せるとなんとなく2階が囲われているような不思議な空間が出来上がったのも面白いなと。

図:スギ4m材の径級と価格

なんでこんなことを考えているかというと、これまでの仕事の中で、日本の森林が様々な問題を抱えていることに触れてきたからです。。日本では林業の循環があまりうまくいっておらず、、7割ぐらいの木が適切に切らなければいけない時期を逃し、太くなりすぎています。そうすると、規格寸法の材料として使いにくくなってしまいます。

 

原木は直径16cmくらいが1番高くて、それ以上太くなると値段がどんどん安くなっていく。なぜかというと、太い柱というのは建材として使いにくいので、合板にしたりチップにしたりするしか使い道がないんです。とても勿体無いですよね。

 

政府も長伐期施業といって、木材を出荷しやすい時期に切るだけでなくて、水源や国土保全といった森林の持つ機能に着目して、ゆっくり育てていこうという考え方にシフトしています。ただ、そうすると木はどんどん太くなっていきます。

 

このような問題に対して、設計者としてできることはなんだろうと。木材生産業者の方も規格を作ったり流通網を整備しているのですが、具体的に需要がないと規格が作れないという課題もあるので、私ができる新しい木材の使い方を積極的に提案していこうと頑張っているところです。

伊藤暁