LECTURE

Super Jury 2020 総評
REPORT

日時:2020年9月26日(土)

ゲスト講評者:
高橋堅(高橋堅建築設計事務所)
勝矢武之(日建設計)
木内俊克(木内建築計画事務所)

進行:佐藤光彦(日本大学理工学部建築学科教授)

高橋堅

建築は、周辺環境や法規、予算など、様々な条件を整えなければ、建てることができないものです。つまり建築は、これらの諸条件を整理していく過程において必然的に変形していくものであると言えるでしょう。パッと思いついた形がすべてを解決してくれることはまずありえません。諸条件をクリアするための変形は、ある意味では合理です。仮説とその検証を経て決められた形というものはリーダブル(可読)であり、それを読み解くことができることもまた、建築のおもしろさのひとつだと考えています。今回発表された作品は、そうしたプロセスよりも形が先行する作品が若干多かったように感じました。
ミース・ファン・デル・ローエによる「バルセロナ・パビリオン」(1929)は、間仕切りとしてある壁を捨象すれば、長方形の屋根を8本の柱が支えている、極めて単純な左右対称の構造形式を持った建築です。またル・コルビュジエの作品も、その多くが長方形の平面でできていますが、そうした単純性を感じさせない空間の豊かさもまた同時に持っています。多くの傑作とされる建築もまた長方形平面を有している、と言っても過言ではありません。整理された構造形式のなかで、いかに豊かな空間をつくり得るかということが、実際の建築では大切になってきます。
ル・コルビュジエは、あなたにとって建築とは何かと聞かれた時に、すかさず「考えに値することに形を与えることだ」と答えています。皆さんもやみくもにカタチをつくるのではなく、「考えに値すること」を「形」にしていきましょう。

勝矢武之

現在、条件が複雑化するなど、徐々に建築をつくるのが難しくなっている状況にあると感じています。そうしたなかで、逆に学生の設計課題では、そうした条件に縛られ過ぎずに、自分の考えた空間の面白さ、良さを追及していって欲しいと思っています。それが建築を続ける原動力になると考えています。
出来た形がすべてだとも言えますが、しかしその形のつくり方、特に形が持っているスケール感については意識的に設計をしてほしいです。特に、断面によって立体的に捉えることは重要です。規模が大きくなると、さらに断面でスケールを把握することがポイントになってきます。スケール的に適正か、自分がつくったものが本当に良いか、おもしろいか、美しいか、という点について考え続けてほしいと思います。

木内俊克

自分がつくったものを検証して、目的に対してどの程度うまくいき、どの程度ダメだったのかを評価してほしいと思います。また、それを記述したうえで、どんな仕組みを考えれば改善できるのかという新しい仮説を立て、考えうる形のバリエーションをたくさんつくっていく。そしてさらに、それらを分析して、記述する。自分にとって「より良い」と感じられるものが、形の問題としてはどういうことなのかを言語化し、数値化して、その判断基準によって「良い」ものを選んでいく。そうした作業を続けていくことが非常に大事だと考えています。それで天才的な作品が生まれるかどうかはわかりませんが、こうした反復をどれだけできたかによって案の密度は大きく変わっていきますし、案が持っている良い部分を伸ばしていけると思います。