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新村浩望・土川喬太・吉啓介
丸の内一丁目農園
Super Jury
100年後、私たちが抱えるであろう大きな社会問題として、食糧不足が挙げられます。世界人口の増加から、必要な農地面積は増大し、食料自給率が低い日本では十分に食物が供給されなくなる未来も考えられます。現在、すでに農業従事者は高齢化しており、新規就農者は少なく、離農者も多いという状況があります。そこで、私たちは未来の都市空間で農業ができる「垂直農園」を提案します。
「新丸の内ビルディング」を敷地に選びました。東京駅と皇居をつなぐ通りに面し、日本の経済を担う中心地に建っています。現在の丸の内には、高層ビルが建ち並び、高密で余白のない都市空間が形成されています。しかし、人口減少や仕事のオンライン化などの社会変化により、未来には多くの高層ビルに余白が生まれてくる可能性があり、そこに農地を侵食させていくという計画です。運営スキームとしては、農業を中心としたビジネスを促進し、また実験施設を併設し、街と農業が密接に関わり合う仕組みです。
南側のファサードから日射を取り入れ、東西面のカーテンウォールを一部取り外し、通風を確保しました。
9階から33階にかけて2、3層ごとのユニットに分割し、農地を配置しています。日本の農村風景に見られる棚田を連想させる形状で、セットバックにより日射が建物の奥まで届く計画としています。
詳細は15階から17階の農地ユニットを取り上げて説明します。スラブには雨水を利用した水路を張り巡らせ、垂直農園の問題点である水不足に対応します。ユニット内の農地をつなぐ階段は小さな丘のような形状で、水路の下階へのルートになるとともに、内部には農具を収納します。
外部には可動式の鏡を、天井面にも鏡を取り付け、自然光を奥まで導きます。加えて、元々のビルの構造を活かしながらサイロや保管庫などの必要諸室も計画しています。
オフィススペースは農地の一角に計画され、開放的な空間で仕事をすることができます。建物内のレストランでは、育った作物を使った料理を提供します。
植物と人間が共存する空間によって、この高層ビルは「生きられる都市空間」になっていきます。
挑んでいる問題の設定が良いですし、それを真面目に考えた結果、桁外れな空間ができているところがおもしろいですね。これだけの計画であれば、手入れはおそらくロボットがやっているでしょうし、既存のスプリンクラーの転用も考えられます。また、高層ビルでは、地上近くと上の方とでは気候が違うので、作物も変わってくるとか、様々な想像が膨らみます。この建築によって、千代田区の食料をどの程度カバーできるかなどを実際に計算してみると、都市を食わせる、都市の自立のためのストラテジーになり得ます。農業自体をもっとリサーチしてみてください。
100年後ではなく、5年後、10年後の想定でも良いですね。フードプリンタなどの技術がもっと進むと、各家庭レベルで自分の食料を生産するといった可能性もあるので、高層ビルに農地を集約する利点は問い直した方が良いと思います。課題に答えるという意味では、運営スキームにおいてビジネスが中心になってしまい、肝心の生産者がもっと描くべきではないでしょうか。
高層階に農地をつくると、強風によってオフィス内や丸の内エリア、皇居にも砂埃が舞ってしまいそうです。現代の植物工場では、人工照明による栽培によって、通常の農地より高い生産性で作物をつくるようなことも技術的に可能になっています。なぜ農地が都市にないのかという理由を考え、そこで生まれる環境的な軋轢をいかに解決するかなどの視点を盛り込むとより良い提案になると思います。