大久保歩|卒業論文
三重県南伊勢町神津佐地区における津波避難のための取り組み
卒業論文
研究の背景と目的
東日本大震災の被害を教訓とし、海岸地形による津波リスク1)や少子高齢化社会における防災力の低下2)が懸念されている。本研究では、地域の避難行動における取り組みや課題を調査し、津波に対して脆弱な地形,過疎化や高齢化といった地域特性による災害リスクを抱える地域において有効な取り組みを明らかにすることを目的とする。
調査概要
調査対象地は、津波に対して脆弱な地形を持ち、南海トラフ地震で被害が想定されている地域として三重県南伊勢町神津佐地区とする。リアス海岸の湾奧かつ、集落の中心に川が流れている地形であると同時に、高齢化率が46.45%と少子高齢化の進む地域でもある。
調査は、避難行動や防災意識,地域が抱える課題やおこなっている取り組みについて、神津佐地区の区長1名と組長3名,2つの福祉施設の職員各1名にインタビューを実施した。また、実際の避難方法について、地区住民23世帯にインタビューを実施した。
結果
①避難場所の整備
F組の津波一時避難場所は、役場の指導のもと住民らが協力しながら整備した避難場所であることが聞き取れた。この避難場所がない場合、別の組の避難場所に避難する必要があり、当該避難場所ができたことで道のり143~218m(時間にして約2分~3分)の短縮になる。
②避難路
地震や降雨などで避難場所や避難路が崩落するなどの懸念が聞き取れた一方、住民らは個人宅の敷地を避難経路として通行しており、避難経路及び避難時間の短縮をしていることがわかった。
③要援護者への対応
3組とも、組内外の要援護者を把握していたが、具体的な支援方法は定めていなかった。また、避難路が山道で険しく街灯もないことから、車いすなどを用いての避難が困難であること、家屋や塀の倒壊により道路が通行不能になった場合、自動車での避難ができなくなる懸念が聞き取れた。福祉施設Gも同様に、避難路が険しく、身体の不自由な利用者が多いため、避難に不安があることがわかった。
④個人宅の敷地の利用
B組では8世帯中5世帯が避難経路に他人の敷地を含んでおり、最も通行されていたのは図2で示す箇所である。その敷地を通行することにより最大で道のり88m(時間にして約2分)の短縮となり、住民の避難に寄与していた。通行する側の意識として、通行する上で敷地所有者と特段の取り決めはなく、普通の道と同様の意識で通行していることが聞き取れた。一方、通行される側の敷地所有者は、障害物の撤去をおこなうなどして通行しやすくしていた。
まとめ
今後の取り組みとして、要援護者避難のために避難路を中心としたハード面の整備をおこなうことが挙げられる。神津佐地区がおこなってきた取り組み実績を活かし、敷地の清掃や山道の舗装など、住民個人が可能な範囲で整備をおこなうことを提案する。
また、個人宅の敷地を避難経路とする取り組みは、類似地域において参考事例となり得る。神津佐地区に潜在的に存在する門の開放、敷地の通路化などのルールを、契約などにより明確な取り決めとして顕在化させることで、特殊なコミュニティのない地域においても適用可能になるのではないか。
図1.神津佐地区の概要
図2.B組の概要
参考文献
1)国土交通省HP:河川津波対策検討会(参照2022.01.20)
https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/kasentsunamitaisaku/index.html
国土交通省HP:港湾分科会防災部会(参照2022.01.20)
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/s303_kouwanbousai01.html
2)内閣府HP:平成28年版防災白書(参照2022.12.22)
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h28/honbun/0b_1s_01_00.html