桜建賞
宮田太郎
arrangement
卒業設計
大学に近い神保町は授業サボりと放課後の相手をしてくれる場所です。そんな場所が少しのきっかけと観察の目を向けるだけで、ある日から全く違う見え方を与えてくれるようになりました。観察者として特に立派な意味や正確な情報を収集するのでなく、他者として何を読み取っていくのかという作業が、都市を読み解き理解していく手がかりになると思っています。その時、これから建て替わる三省堂書店の神保町本店がどのように提案できるのかと卒業設計で取りかかりました。
1.この作品が生まれたきっかけは?
私が所属している佐藤光彦研究室では佐藤光彦先生と塚田修大さんのご指導のもと熱海サーベイを行っています。ここでは熱海特有の地形によって起きている建築の建ち方や関係性を温泉産業などの経済的な事情も含めながら、多角的に記述することを目的としています。この活動にゼミ生として関わり、物事が起こる現象の背景にはどのような事情が関係しているのか、深く考える楽しさと価値の大きさを知りました。これがきっかけで計画敷地である神保町の見え方が変わり、卒業設計として何ができるか考えるようになりました。
2. 建築学科を志望した理由は?
建築家になるためです。ある師匠に出会った小学4年生のときに、建築家になると決めていました。
3. 今後の抱負は?
建築家になります。
卒業設計/2024年度
どのような外的要因からこのプロジェクトに挑んだのか。
▶︎私はここを歩く通行人でしかないので、この件に関しては卒業設計でしか表現することができない。神保町の古書店の店主の方に話を聞くと、自分達のお店がなくなると本の行き場がなくなるとおっしゃっていて、これは個人の意見ではあるけどとても公共性を孕んでいる言葉だと思った。ストレージ機能を持たせることで建築のボリュームに影響を与えると共に、都市的にも影響を与えられる提案になればいいなと思い取り組んだ。
Q.この建物ができることで、既存の古書店街はどうなると思いますか。
▶︎古書店内に置けない本や普段店先に並べられない本をストレージ部分に並べることができる。普段なら古書と出会えない人達も出会えるようになるので、古書店街が元気になるような本との出会い方をデザインできたと思う。
Q.古書の交換会というのは具体的にどのようなことをしているのか。
▶︎交換会は毎日行われている。本には多くのジャンルがあるため、漫画の日、医学書の日というように実は神保町の裏側で行われている。買い取ったけど、うまく値付けができないよいう本を交換会に出品することで、自分の本棚なら並べられるという店主と出会える。元々そういう市場のようなことを行っていたのを建築に転換して、もっとその機能がドライブしていくように考えた。
Q.ファイナリストの7人中5人が手法的なものに着目する中で、都市の状況を見て課題を見つけ、取り組んでいることに共感できる。本に興味があるんだねと聞いたら、本の配列に興味があるんだということを言っていて、見せてくれた調査もすごく面白かった。本の配列の調査から出てきたデザインやパターンがあれば教えてほしい。
▶︎古書店の店主がなぜこのように本を配列しているかに興味があった。自分が通行人からその観察者に変わる変遷が、建築の中でも起こるとすれば、この課題に正面から向き合えていることになるのではと思った。大型書店をプロジェクトにしようと思ったのは、大型書店だと本との出会い方が単調になりがちだし、そもそもこの時代に大型書店にできることを模索したから。現在推薦図書が置いてある1階部分は、本を街路で販売するということではなく、外部と内部の境界をつくる扉が本の裏にしまわれていたり、平面計画のデザインだったり、どこから考えたかちょっとわからないような計画を落とし込みたかった。
Q.祝祭感を施設から感じるが、街にこの建物ができることで周りの古本屋との関係はどうなるか。
▶︎劇的に変わることはないと思っている。本に出会う出会い方が「検索ではなく探索」になったらいいなと思う。
古本屋街の再生が今回のプロジェクトだと思うが、タイトルにあえて「三省堂」とつけているのはなぜか。大型書店に対して、このような試みを提案しているということか。
▶︎実はギリギリまでタイトルが決まらなくて…。でも文化都市にある大きな資本を持っている存在が都市的な視点を持って会社を運営していくことは推したいと思っていたのでこのタイトルに。
スロープを設けた理由はあるのか。
▶︎二重螺旋になっていて、三省堂の機能を担保した線上の店舗空間と古書の交換会ができる線上の市場に分かれている。店主もお客様もそれぞれが本に出会う場と時間があるんだということを建築によって重ねたかった。