LECTURE

Super Jury 2023 ショートレクチャー
藤貴彰(三菱地所設計・tyfa代表・明治大学兼任講師)
REPORT

「サーキュラリティー」ということをテーマに設計活動をしています。サーキュラリティーとは製品や資源の価値を永続的に再生できる能力のことです。サーキュラーエコノミーという言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか。物質の循環ということが地球環境保全につながるということで、光・風・熱の環境シュミレーションを通じて素材から建築を考えています。

 

私は2007年に早稲田大学の古谷研究室を卒業して、三菱地所設計に入社しました。その後台湾に駐在したりして、2019年に妻とtyfaという個人での活動も開始しております。。その2つの組織での作品をそれぞれお話しできればと思います。

台北南山広場 提供 三菱地所設計

台湾に駐在して、台北南山広場という超高層オフィスビルを設計しました。超高層ビルを建てると壁面に当たった風が下に吹き下ろすことによってビル風が起きますね。今回はすでに508mの超高層ビルが横にある敷地で、その足元には非常に強いビル風が吹いていたので、このビル風をどう和らげて快適な環境が作れるかということをテーマに、環境シミュレーションをしながら設計しました。

 

建物を八角形にすることで、強風域も無風域もちょうど良く収まることがわかり、平面形状が決まりました。また、吹き下ろす風を減らすために建物の外側を斜めにすぼめるよう変更。この形状は隣接する超高層ビルに当たって起きるビル風も軽減できることがわかり、敷地の外も含めてこのエリア一帯を快適な空間にすることができました。

出窓の塔居(2020〜) 撮影:西川公朗

自邸の設計を行いました。住宅密集地にあり、周辺住居の窓が面する敷地のため、南山広場と同様に、周辺環境へ配慮しながら設計していきました。敷地の角に当たる部分を45度スパっと切って八角形に近づけていくことで、ポケットパークのようなものができ、風がスムーズに流れ周囲の各住戸にも光が届くようにしました。

 

室内は出窓部分がベンチになっており、家族それぞれが本を読んだり、絵を書いたり思い思いに過ごしています。また、窓周りの断熱性を少しでもあげるために、外壁部分に「炭化コルク」という外装材を使用しています。この素材はすごく面白くて、コルク樫という樫の木の樹皮からできているので、木を切らないんですよ。

 

コルクの樹皮だけを大根のかつら剥きのようにペロッと剥くとワインに使うコルク栓が出来上がります。余った部分を砕いて型に入れ、熱をかけてプレスすると樹液だけで固まるというのがポイントで、一切接着剤を使っていません。住み出して面白かったのが人間以外の動植物にとって、このコルクの外装材を纏った建物自体が樫の大木そのもののようで、植物が自生したり、カタツムリが棲みついたり、蝉が孵化したりしています。

 

また、トラスにすると梁成がすごく出るので、梁の上弦材と下弦材のどちらに2階の床を乗せるかという選択ができます。写真のように梁の下弦材に床を乗せるとなんとなく2階が囲われているような不思議な空間が出来上がったのも面白いなと。

巡る間(2023〜) 撮影:関拓弥

こちらは目の前が拡幅道路になっているため、いずれ立退が必要な敷地。廃棄物にならず、簡単に解体・再構築できる住宅を考えました。使用材料はホームセンターで調達可能な3種類の木材を、プレカットせずにボルトで止めるのみで成立しています。

ジャルディーニ・マリナレッサガーデン ベネチ庵 (2023〜) 撮影:Yuta Sawamura

ヴェネチアビエンナーレの関連イベントの一つとして、一人用の茶室もデザインしました。イタリアの食品廃棄物であるパスタとコーヒーを建材としてできていて、フードウェスト問題にも切り込んでいます。

 

[2023年9月30日 @日本大学タワースコラ]

藤貴彰