Super Jury 2024 ショートレクチャー
御手洗龍(建築家/株式会社御手洗龍建築設計事務所)
REPORT
設計事務所をはじめて10年くらい経ちますが、豊かさってなんだろうということをよく考えています。僕は伊東豊雄事務所に9年ほどいて、その後独立をしました。その後Y-GSA(横浜国立大学大学院/建築都市スクール)の設計助手を務めていた際にサマーワークショップで訪問したブラジル/リオ・デ・ジャネイロで見て感じたことを紹介します。自分の建築を考えるひとつの大きな起点になりました。
リオ・デ・ジャネイロにはビーチがあり、平和でいつも楽しそうな街ですが、ファベーラというスラム街もあります。中でも崖に張り付くように広がるヴィディガルというファベーラがあり、隣に並ぶ崖の丘には有名人の別荘などがあったりするほど景色のいい場所となっています。ファベーラですから、そこに違法に家が密集して建っていて、町から盗電したり、自分たちで給水システムを構築しながら生活したりしています。その風景のコントラストがとても興味深い。
でも、彼らには彼らなりの自治や工夫があります。街中にアートがあったり、カラフルな設えの建物が並んでいたり、私設図書館で子供たちに本を読ませていたり。夜には海風と共にギターの音色が流れてきて、夜景を眺めながらゆっくりとした時間を過ごしています。
ファベーラのひとつである「ヴィディガル」の景観東京に戻ってくると、電車は時間通りくるし、スイッチひとつで照明はつくし、本当にとても便利なんですが、彼らのほうがどことなく豊かに暮らしているような気がして、もどかしさを感じたんですよね。
そこで、豊かさってなんだろうと考えたとき、ファベーラの豊かな地形や環境を能動的に使いこなす暮らしぶりにあるのではないかと考えました。便利さなどとは違う、そういう能動性をを喚起した建築はできないものか、と考えてやってきました。
マドノスミカ/House in the windows
2015/東京
独立初期の作品で、「マドノスミカ」という戸建住宅です。出窓は面積にカウントされません。狭小地で面積が限られていたので、たくさんの出窓を使って広がりのある空間を生み出した事例です。出窓は外に出すだけでなく内側にも引き込み、ひとつの部屋のように使ったり、ちょっとしたベンチのように使ったり、様々な出窓の可能性を探りました。
暖居 Photo by Kai Nakamura
2024/長野
詩人の谷川俊太郎さんの別荘である通称「Tanikiawa House」の離れとして『暖居』を設計しました。ちなみに、別荘の設計は篠原一男さんです。とにかく寒い地域なので、暖をとる小屋を既存の樹木の間に建ててほしいというリクエストを頂きました。
ただ、木の根も深く、切らずに建てられる場所がないということでツリーハウス方式に。おかげで全方向に開口部を設けることができて、とにかく温かい室内を実現することができました。外の景色を眺めながらサウナにも入れます。温かくて居心地の良い4つの窓で構成されている小屋です。
松原児童青少年交流センターmiraton(ミラトン)・松原テニスコート
2022/埼玉
埼玉のマンモス団地である松原団地の中央に子供たちの居場所となる交流センターとテニスコートを設計しました。老朽化による一斉建替に伴い、小学校と幼稚園以外は更地。私たちは紙コップを半分に切ったような形のトンネル状の空間が9棟連なったような建物を建てました。大きさや傾きが異なるトンネルの連続が、やわらかく包み込むような安心感を与えてくれます。
Grove
2023/埼玉
9世帯の大きさの異なる住宅と様々な用途が複合する集合住宅です。内外の一体的な使い方と開かれた建築をつくるために、外側をもう少し立体的にしたくて、柱と梁が各層で編み込まれているようなストラクチャーにしました。外部と内部を繋いでいくようなデザインになっています。