LECTURE

Super Jury 2024 ショートレクチャー
種田元晴(近代建築史研究者/文化学園大学造形学部准教授)
REPORT

建築の物語性と田園性の探求というテーマで研究をしています。設計に歴史的な視点がどう役に立つのかということを考えていて、その中で建築というものを「場所に意味と形を与える行為」だと考えると面白いのではないかと思っています。

ただ、若くして亡くなったので、建築作品はほとんどありません。でも書き残した図面が多く残っていて、文学者として有名なので、文学全集は残っています。その点も他の建築家と違い、お友達とのやりとりなどの手紙がまとめられた書簡集も残っています。これによってその時に彼がなにを考えていたか分かり、研究のしがいがある人物でもあります。

 

例えば、透視図などをみると大きな山を背景に、建物を描いているものが多く見受けられます。普通は建物を大きく描いて、それにかぶらないように端の方に植栽を入れるのですが、背景や前景を豊かに描くのが立原の特徴です。

「ヒアシンスハウス」は一人用のアトリエ兼住宅です。遺されたスケッチを元に2004年に建設され、今も埼玉に現存します。このスケッチの20年後にル・コルビュジエがカップマルタンの休暇小屋を発表していますので、それよりもかなり前にこのような狭小の週末住宅を作っていたことに驚きます。

 

インテリアにもかなり興味を持っていて、家具や小物なども緻密に設計してスケッチを描いています。建築を取り巻く自然風景やそこで起こる出来事、どのように暮らすのかというシーンを大切に考えているのでしょう。

丹下健三は亡くなる間際に「友人の立原道造から刺激を受け、建築家になることを最終的に決定した」と述べています。立原は戦前に短く生き、丹下は戦後を長く生きた。立原は都会に生まれて田園に憧れ、丹下は田園に生まれて都市を作った、というように対比的に見えますが、これは卒業設計を見ても同様です。

山の描き方ひとつとっても、立原は浅間山に寄り添うように描くけど、丹下はじぶんの建築の延長に富士山があるように描いています。丹下の都市志向と立原の田園志向というふうに捉えると、20世紀は丹下的に都市をどんどん作っていくのが主題でしたが、今はもう全て出来上がった状態。21世紀に建築を作ろうという人たちはこれまでと同じ考えではなく、立原的な元々あるものを大切にするという価値観を見習うことも必要なのではないでしょうか。

 

種田元晴