SELECTION
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卒業設計選奨
長谷川理奈
ドヤ街を食べていく美術館 -街の特色を捕食した美術館の在り方-
卒業設計

敷地である日本三大ドヤ街のひとつである横浜市中区寿町は、昨今、住人の高齢化により労働の街として機能することが難しくなってきています。しかし将来的にも、社会的弱者になってしまった人々のために、受け皿として存在するべきだと考えます。人口減少によって生まれる余白をつなぎ合わせ、街に還元する建築を設計します。
建築を生物に見立て、既存の街を捕食していくようにバイオミミクリー的設計手法を用います。食べ残された場所に、ドヤ街の特徴的空間である開口を多く設けるための中庭や、コミュニティが培われている街角などが食べ残され、既存の街に組み込まれます。

具体的な空間操作としては、①食べやすいところから食べていく「むしくい」、②食虫植物のように下へ下へと誘導する「おとしあな」、③周りの風景に同化し食べるタイミングを見計らう「擬態」、④囲い込むように捕まえる「捕食」の4種類があります。

それらの手法で新築・コンバージョンを併用し、美術館を設計します。簡易宿泊所の経営が厳しくなってきた大家などと協力した運営を想定します。美術館は、分け隔てなく人と関われるアーティストたちが出入りし、ある目的のためではない広場や空間を持てるプログラムであり、ドヤ街に住む人々に未来を見せてくれ、なおかつ将来戻ってきたくなるような街になるきっかけになります。
「むしくい」による開発は、既存の街区を無視した大規模再開発のような計画ではなく、建物を躯体だけ利用したり、ある階のみコンバージョンするため、既存建築に依存したボリュームになります。わざと食べ残された部分は、街と美術館との隙間となり両者の関係をつくります。
「おとしあな」となる美術館のエントランスは、唯一ドヤ街とヒエラルキーを設け、街から切り離されたように地下に潜り、中に引き込む設計になっています。
「擬態」する部分は、周囲の建物に合わせて分棟で建物を設計します。ファサードは街に多く見られる赤色とし、美術館を街に溶け込むようし、美術館を周囲との関係を築きます。
「捕食」する部分では、 既存の簡易宿泊所を囲うように美術館が増築されます。一部は簡易宿泊所として残したまま、アーティスト・イン・レジデンスの参加者の住まいにもなり、隙間になっていきます。
簡易宿泊所をコンバージョンしたアーティスト・イン・レジデンスや、アール・ブリュットなどの市民展示、いらなくなった資材を転用して作品をつくるマテリアルライブラリーなど、アートを媒介としたコミュニティの発生に期待します。

時代のニーズに合わせるように、街と建築の食べる・食べられるの関係性をつくり、ドヤ街と美術館がバランスを取りながら共に生きていくような街を設計しました。

講評
齋藤由和

「食べる」という表現を設計に使ったことはとても発見的ですね。具体的に聞いていくと、街を食べていることもあれば、人を食べていることもあるという提案です。「擬態」という一言をとっても、食べるためにする擬態と食べられないためにする擬態とがあるように、色々な想像を膨らませるおもしろい提案だと思いました。

富永大毅

街を食べるという寓意的な表現に則って考えるならば、食べ残されるものや、必然的に食べたら出てくる排泄物も気になります。そうしたメタな循環を材料や構法なども含めて考えることで、より永続的な街の運営に目が向くような視点が得られるはずです。

仲條雪

ドヤ街の再生を提案する際に、プログラムとして美術館でいいのだろうかという疑問は残りました。直接的に雇用を生み出すとか、生活が実際に救われるきっかけまで提案があると、より現実的な案になったのではないでしょうか。