SELECTION
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石川初賞
榎本海月・藤井朋美・山下紗輝衣
御茶ノ水の隠れた物語
Super Jury

御茶ノ水は日本を代表する学生街であり、オフィス街です。各々が目的地に向かって人々が行き交うせわしない街という印象を与えますが、注意深く歩くと、路地裏にひっそりとした滞在空間があります。この隠れた空間こそが御茶ノ水の空間の本質と捉え、私たちは茗渓通り、紅梅通り、明大通りという3つの通りに囲まれた街区に対して提案を行います。
この街区には多くの路地空間が存在しています。これらをリサーチして、設計手法に取り込み、御茶ノ水にウォーカブルなストリートをつくります。
路地を分析すると、①幅員1mほどの細くまっすぐな道、②滞在空間のある「裏表裏」が交互に現れるファサード、③表の空間を彩るエレメント、という3要素が抽出できました。
街区のファサードを調査すると、ほとんどの建物に1階と上層部とを分割するようなエレメントが配置されていました。そこで、本提案の立面では、1階のファサードをセットバックすることによって、1階と上層階を分割しつつ、周囲にも馴染む構成としました。

 

 

新築と改築を混ぜ合わせ、既存の街の空間を継承します。新築部分には現状の路地を同じ幅員で延長させる道を通し、街区の建築に合わせてボリュームを分割しています。また、「裏表裏」の原理で建物を配置し、外部空間をつくります。既存の路地を踏襲したエレメントを付加することでヒューマンスケールの路地をつくり出しています。

断面は、既存街区に対して目立たないよう、周囲の建築に合わせています。路地内部に向けてセットバックしていくことで、断面的にも隠れた場所をつくり出しています。
敷地は茗渓通りと紅梅通りに挟まれたSite Aと、名大通りに面したSite Bに分けられます。Site Aでは、1階には路地に面して茗渓通りと協力したお店が並び、2階には住民が経営するお店、3階には住宅、4階には事務所が重なっています。Site Bでは改築による開発を主として、落ち着いた飲み屋街を形成しています。建物に囲まれていた場所に飲み屋とつながるテラスを配置して、御茶ノ水の隠れ家として再構成します。

1階平面

2階・3階・4階平面

運営は、敷地内の事務所に入った「アリの巣の会」という会社と茗渓通りのお店などによって共同で維持管理をしていきます。路地裏に隠れた滞在空間をつくることで、人々は何かがあるのかもしれないという期待を胸に御茶ノ水に訪れるでしょう。そのような些細なことから世界の見え方が変わると考えています。

講評
西田司

周辺のビルが室内空間なのに対して、この提案は基本的に室外空間となっているので、屋外だからこそできる活動や価値をもっと考えた方が良いと思いました。また、室外機が集まる裏の空間で、どのように通風を確保するかなどの環境的な視点も入れると可能性を深めることができそうです。

秋吉浩気

床面積が限られてしまうなかで、運営者としておもしろい人たちを招き入れるには、収益を生む独自の工夫が必要です。それがさらにこの空間に再配分されるような仕組みを考えるべきだと思います。ふるさと納税のように、自分の目に見えるかたちでお金が使われるのは喜びがありますし、そうした投資は近年メジャーになってきています。運営と投資の解像度をより上げてみてください。

石川初

マニラとかジャカルタなどの亜熱帯の都市で成立しそうなアイデアですね。この路地に惚れ込んでいることがよくわかり、魅力的でした。都市をカテーテル手術のように改善していくスキームで、既存の街並みをバックアップできるような施設をつくろうという発想にも共感しました。そのうえで、運営スキームに従来の組織とは異なる、よりラディカルな提案が含まれていても良いと思いました。