SELECTION

奨励賞
近藤孝俊|卒業論文
新型コロナウイルス感染症拡大下における飲食店の新しい役割に関する研究 -渋谷区5商店街飲食店の営業と空間の変化を通して-
卒業・修士論文

1.研究の背景と目的

新型コロナウイルス感染症拡大により、2020年の東京都の飲食店閉店数は過去最多となり1)、その中でも、渋谷区の閉店数が最も多くなっている2)。本研究では、新型コロナウイルス感染症拡大下において、休業要請が出されるなど、運営形態に大きな変更を強いられている飲食店の取り組みや変化について明らかにした上で、飲食店の新しい役割を見出すことを目的とする。

 

2.調査概要

調査対象は、東京都渋谷区において、飲食店の閉店数が比較的少ない住宅地に立地する幡ヶ谷6号通り、六号坂通り、十号通り、笹塚十号坂、広尾商店街の5商店街とした。調査は、5商店街の代表者にコロナ禍の状況についてインタビューを実施した後に、各商店街において、目視で確認できる飲食店の立地や営業状況、テイクアウト等の取り組みについて悉皆調査を実施した。その上で、飲食店の種別や営業方法の異なる飲食店11店舗を対象にインタビュー調査及び実測調査を実施した。

 

3.結果

①飲食店における感染対策のための取り組み

7事例が座席数を変更しており、感染対策や密を避けるために座席を減らしていた。また、事例6は、出入り口を開放することで、半屋外のような空間としていた。特に感染対策を徹底していた事例5は、客席と厨房の間にビニールシートを設置したが、声や視界が遮られるなどの問題が生じていた。事例4、11は、新しい取り組みを開始するために座席数を減らしていた。

レイアウトを変更した2事例は、座席を減らした上で離す工夫や、複数の机を組み合わせて着席するグループ数を限定していた。

客席を変更していない2事例は、元々店が混雑していなかったことや、来店時の人数によって客席を変更していたため、コロナ禍の変更はなかった。

②飲食店のテイクアウト・デリバリー・通販に必要な空間

テイクアウト・デリバリーを開始した8事例は、空間の大きな変更をしなくても実施できており、特別な作業空間を必要としないことが分かった。一方、事例3は、客席から酒類等を販売する物販の空間に変更している。客席を変更しても支障がない場合は、専用の空間に変更できたと考えられる。

通販を開始した事例4は、専用の空間が必要なため、2階の客席を作業場所兼事務所に変更していた。一方、事例9は、厨房に扉をつけることで他用途から区画する条件を満たし、通販を開始していた。

その他の取り組みを実施した事例11は、客席を演奏スペースに変更しており、店主が元々やりたいと考えていたことをコロナ禍に開始していた。

③新型コロナウイルス感染症第5波収束後の飲食店

6事例が、感染対策のために変更した客席を元に戻す一方で、事例6は滞在時間の短い空間を継続していくことが聞き取れた。

また、8事例がテイクアウト等を継続となっており、特に物販や通販に必要な空間を継続する意見が聞き取れた。

さらに、その他の取り組みを実施した事例11は、演奏スペースを継続することが聞き取れた。

インタビュー対象店舗の営業状況と取り組み

インタビュー対象店舗の空間の変化

4.まとめ

飲食店の多くは、感染対策のために客席を変更し、室内空間の使い方を工夫していた。さらに、緊急事態宣言下では、休業が多く見られ、テイクアウト等の準備や改修工事を行い、営業再開時に、テイクアウトや通販など、新しい取り組みを実施した店舗もあった。特に通販を実施した店舗は、客席から作業場所に変更し、空間の変更を伴うことが確認できた。六号、十号通り商店街など、住宅地の飲食店では、客とのコミュニケーションを重視しており、感染対策による変更が、その弊害となることや、テイクアウト等だけでは、店内の売り上げを補うことができない等、対面で営業することの重要性が再確認されたことを店主から聞き取ることができた。一方、広尾商店街の地元圏外からも利用される飲食店では、緊急事態宣言解除後もデリバリー、通販などを継続する旨を聞き取ることができた。

以上のように、飲食店の役割は、立地によって差が見られ、新型コロナウイルス感染症拡大を経た変化は一様ではないことが分かった。今後、継続して調査していくことで、新型コロナウイルス感染症拡大を経て、元に戻る取り組みと維持する取り組みを明確にし、飲食店を計画する上で必要となる空間の新しい形を見出したい。

5.参考文献

1)株式会社帝国データバンク https://www.tdb.co.jp/tosan/covid19/pdf/tosan.pdf(参照2021.12.22.)

2)  Foodist  Media食の世界をつなぐWebマガジン https://www.inshokuten.com/foodist/(参照2021.9.14 )