SELECTION
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吉田鉄郎賞
石田弘樹
『スクラップ・アンド・ビルド』から『スクラップ・フォー・ビルド』へ -建設過程と解体過程における『祝祭性』に着目した資材循環プロセスの提案-
修士設計

この研究は、建築の建設と解体の過程において廃墟性という共通点があると感じたことから着想を得ました。
現代では、大量破壊・一斉開発を伴う「スクラップ・アンド・ビルド」が社会問題となっています。解体は一般的にネガティブなものとして扱われていますが、私はそれは建設時のように祭事が行われないからではないかと考えました。
そこで解体行為における祝祭性を見直し、建設行為と等価に扱うことで、従来の直線的な「スクラップ・アンド・ビルド」を超えた、建築資材を循環させる「スクラップ・フォー・ビルド」を提案します。建設過程においては、建設前の地鎮祭、建設中の上棟式、建設後の竣工式がその行為を祝祭的にしています。これらの祭事の原型となったのは式年遷宮といわれており、元々は33の祭事が行われていたものが簡略化され、主に3つの祭事のみが一般に広がったとされています。しかし、式年遷宮を見直すと、建設過程だけでなく解体過程においても祭事を行っていることがわかり、解体行為の祝祭性についても考察しました。

解体前における祝祭性の事例では、解体が決定した既存建築という自由度の高さを活かしたイベントが行われています。解体中における祝祭性の事例では、解体行為そのものや、解体中の空間を祝祭的に扱っています。解体後における祝祭性の事例では、機能を失った解体後の建築の一部が残され、慰霊の対象や別の機能として転用されていることが挙げられます。以上を踏まえて、解体前の祭事を「展示祭」、解体中の祭事を「解体式」、解体後の祭事を「転用式」と位置づけ、解体過程における「祝祭性」を表すものとして定義します。
建設過程では、地鎮祭、上棟式、竣工式のように通常通り祭事が行われ、解体過程においても3つの祭事が行われます。これらが繰り返されることで、祝祭性が建築資材の循環を生み出します。建築資材の循環について、適用範囲ごとに、「室内循環」、「一棟循環」、「地域内循環」、「地域外循環」の4つに分類し、事例と共に考察しました。
「室内循環」では、同じ空間内で資材の循環サイクルを生み出すことで、廃棄資材の軽減や運搬費の削減を促します。
「一棟循環」では、ある建物内で物的資材や人的資材の循環サイクルを生むことで、建物内での資材の交換によるコミュニケーションを行います。
「地域内循環」では、地域の資材を有効活用することで、廃棄資材の削減とともにエリア全体の活性化を図っています。
「地域外循環」では、地域を超えて資材を循環させることで、元のコンテクストを離れた資材に新たな意味が付与されます。
今回の設計では「室内循環」、「一棟循環」、「地域内循環」について提案しました。

建築資材の加工方法に関しては、建築の主要構造部となる木系資材、コンクリート系資材、鉄系資材の3つに分類しました。各資材の加工過程を把握するマトリクスをつくることで、段階的な再利用を可能としています。
表の横軸は加工の段階、縦軸は資材の形状を示し、オレンジ色の部分が再利用される資材です。この表を具体的な資材に適用することで、資材循環の時間の流れを図面上に記述することが可能になります。

計画としては、東京都江戸川区葛西地区全体を循環範囲と設定してエリアリノベーションを行います。地区に位置する妙見島に、建築資材の循環の中枢として、資材を再利用可能な状態まで加工し、再び都市に供給するための資材加工工場を設計します。
現在あまり利用されていない水辺空間を活かすため、水路を島に引き込みました。水路により分割された各エリアに、南から木系、鉄系、コンクリート系の資材加工工場を配置しました。上部が歩行者、下部が車両動線であるブリッジを敷地全体に横断するように2本架け、外構には屋根やスロープなどを配置することで、それぞれの工場をつなぐ歩行者動線を創出しました。

工場の平面計画は分析に用いたマトリクスを元に設計を行うことで、各工場内での資材の加工工程を把握することができます。幾何学的な形態を組み合わせ、島全体に様々な空間体験を創出します。
水辺に映る工場の形態が江戸川の新しい風景を生み出し、この工場を起点として葛西地区に点在的な開発が生まれます。

地区で行われる祝祭的な解体について説明します。
「展示祭」では、解体前という自由度の高さを活かして、アート展示等の様々なイベントを行うことができます。
「解体式」では、解体中の建築や解体行為そのものを祝祭的に扱っています。ここでは2階では解体を行い、1階は生じた資材を加工する場になっています。資材はその場で配布もされます。
「転用式」では、既存建築の一部を残して解体を完了します。残された中央の赤い螺旋階段は象徴的な存在として次の建設の手がかりになり、建設と解体のサイクルを生み出します。

祝祭性に着目した考察を行うことで、ネガティブなものとして扱われている「解体」をポジティブなものに変換し、持続可能社会につながる建設と解体が一体となった開発手法を提示しました。

佐藤慎也

研究としてはとても魅力的でしたが、設計提案の内容は研究とは食い違っているように感じました。廃墟性といういわゆるデカダンス的な発想のうえにこの提案が成り立っているという説明には違和感があります。

佐藤光彦

既にコンクリートや金属系の資材の多くがリサイクルされているので、新たな廃材活用のアイデアがあるとよりおもしろくなる提案だと思いました。解体における祝祭性の欠如という問題と、中枢となる工場の設計手法に一貫性がないように見えてしまうので、うまく説明できると良かったと思います。

今村雅樹

「室内循環」、「一棟循環」、「地域内循環」のいずれかひとつに絞っても修士研究として成立したのではないでしょうか。例えば資材として再利用するためには職人レベルの技術が必要になるなど、解体の解像度を高めると研究の強度もさらに上がると思います。今回の切り口を活かして、今後も設計を行っていってほしいです。

井本佐保里

建設の祭事における祝祭性がひとつの建物として建ち上がっていくところにあるように、解体の祭事においても例えば建材がバラバラになっていくこと自体に新たな祝祭性を見出す可能性があると思いました。