SELECTION
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駿優賞・非常勤講師賞(仲條雪)
伊藤茉奈
渋谷巡行神楽
卒業設計

古代より日本ではこの世に存在するすべてに神が宿ると信じられてきました。しかし、都市の発展と共にその意識は淘汰されつつあります。本計画では、変化の町である渋谷にて、計7つの神楽殿を設計し、神の存在意義を見つめ直す建築を提案します。
対象は目まぐるしい変化を続ける渋谷の中心地で、数100年以上変わらずに開催されている「金王八幡宮例大祭」です。この祭りでは街の繁栄、無病息災を祈願して、屋形の上に金色の鳳凰を飾り付けた鳳輦(ほうれん)が氏子町会をくまなく巡り、設けられた神酒所へ参拝する「鳳輦巡幸」が行われています。鳳輦の巡行とともに神楽の舞手が渋谷区内を廻り、各神酒所で神楽を一幕ずつ展開させていきます。
敷地は、『アースダイバー』(著:中沢新一、2005年)をもとに土地の神聖さを検討し、選定しました。計14ある例大祭参加町会のうち、過去に「岬」であったと推定される場所付近である桜丘町会、道玄坂町会、神泉円山町会、百軒店中町会の計5つの町会と、再開発を代表する渋谷ストリーム、渋谷マークシティ、渋谷パルコの3つの商業施設を対象にしました。
神楽の演目については、金王八幡宮の御祭神である応神天皇の「八幡」と、金王八幡宮とつながりの深い渋谷氷川神社の御祭神である素戔嗚尊(すさのおのみこと)と天照大神(あまてらすおおかみ)の「大蛇(おろち)」と「岩戸(いわと)」を選定しました。この3つの神楽を七幕に分割し、それぞれの神酒所で一幕ずつ展開させていきます。

空間化のプロセスについて、第二幕の渋谷マークシティを例に説明します。まず、展開する神楽のストーリーをもとに全体のイメージを決定します。ここでは「大蛇」の第二幕が展開されます。孤独で乱暴者であった素戔嗚尊が奇稲田姫(くしなだひめ)と出会い改心するストーリーであることから、素戔嗚尊が新たな世界へ「かける」決意を表現するように、格天井やタープを「かける」操作により設計を行っています。このように、建築は物語のメタファーとして存在し、それぞれの神楽のストーリーに適した神楽殿を設計しました。

第六幕の渋谷パルコを説明します。渋谷パルコでは「岩戸」の第六幕を展開しています。この章では岩戸に引きこもった天照大神がそこから出るか躊躇しているシーンを演じています。そのため、この「ゆれる」心情を、薄い膜が「ゆれる」手法により表現しています。常設部に関しては、組物の出三斗(でみつと)を抽出しました。仮設部は、タープの屋根を使用し、一種のとばりのような神聖さを演出しています。

他にも、第一幕の桜丘町ではナイロンの幕を使用したり、透明なアクリル板を使用したり、現代的な要素を付加しています。
常設部分の日常時は、駐車場や待ち合わせ場所として利用でき、渋谷の街の背景としてあります。そのような場所が、お祭りの1日だけ仮説的な要素とともに非日常な空間となり、神楽の舞手が組み合わさることで神聖な場所へと変化します。長い年月によって淘汰された日本人の記憶の隙間を埋め、何気ない景色のひとつにも神様が宿っていることを人々が認識できるような、神聖なものとしてこれらの建築は存在します。

講評
中村航

都市部では祠や神社などが開発でなくなり、デパートの屋上に追いやられているのを見かけますが、そのような問題に対して都市の中に常設の神楽殿をつくり、仮設によって祝祭性を演出しているところがおもしろいです。常設と仮設で利用されている素材の違いがあるとさらに良かったと思います。

高橋堅

常設として格天井は存在感があるためデザイン的にはありとも言えますが、コンセプチュアルに考えれば常設部は普段見落としてしまうくらい街に溶け込んでいてもよいのではないかと思いました。常設部分に仮設のタープを掛けるという単純な操作のみで、一瞬にして非日常が現れるという演出でも良かったかなとも感じました。

雨宮知彦

既存の神楽殿は元々ひとつの建築として成立しているので、そのエレメントを抽出した時に、どのように建築として成立させるかに工夫がほしかったです。例えば柱にあえて鉄骨を用いたり、既存の構築物を利用したりすることで、エレメントを際立たせるような方法もあったのではないでしょうか。

仲條雪

彼女は2020年のアフターコロナのデザインワークショップの時から祈りの場を考えていました。卒業設計で、この現実に向き合うためには祈りの場が必要である、というコンセプトを自分なりに昇華したと感じます。