SELECTION
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非常勤講師賞(江泉光哲・原浩人)
波多野諒
品川屠場 -うら的都市機能とその終焉の記録-
卒業設計

私は食肉文化について3点問題視しています。1点目は食糧問題を引き起こす存在であること、2点目に環境負荷の大きい存在であること、3点目に屠殺場の存在がブラックボックス化されていることです。私はこれらの問題に対して、メディアとして機能する屠殺場を提案します。

まず、現存する屠場・市場の機能に消費の機能を付加し、生産と消費を同居させます。また、牛と豚を育てる部門は塔状の形態とし、家畜糞尿をバイオガスプラントでエネルギーに変換する部門は球状の建築形態とすることで、資源の視認化を図りました。
計画敷地は、背後に品川インターシティの超高層ビル群が立ち並ぶ、容積率の限度が600%に設定された地域です。建物全体は、牛と豚を育てるふたつの塔と低層部の屠場・市場棟の主に3つから構成されています。

家畜たちは塔から下階に運ばれてきて、基壇のようになっている係留場に一時保管された後、屠場・市場棟へ移ります。屠場・市場棟の4階で銃撃、3階で解体、2階の競り場で売買され、最後は地下の出荷場に進みます。
外来者は、駅からエスカレーターを使って直接屋上にアクセスでき、牛や豚が飼育されている脇でバーベキューを楽しめます。また、2階にある品川肉横丁でも食事を楽しむことができます。
外来者は、3階での解体を4階から見下ろすように見学できます。解体ラインは従来だと直線状に配置されていますが、この提案では循環型にしていて、外来者の動線や肉横丁と接する配置としています。外来者は一部、解体ラインを見上げながら場内を巡ることができます。
本来であれば、牧場で得られた家畜糞尿はバイオガスプラントへ輸送し、エネルギー変換されますが、この案では場内にバイオガスプラントを配置することで、場内でエネルギーの再利用が行えます。

牛と豚の飼育塔は、それぞれの飼育環境の差異を反映した平面構成、ファサードデザインになっています。
食肉文化は環境に負荷を与え、食糧問題を引き起こしていることから、近年代替肉が流行し、需要が増え続けています。50年後、食肉文化が廃れたのちに、この塔は家畜を育てる施設から大豆を育てる施設へとコンバージョンする想定です。低層部と塔を墓石のような形態で計画することで、コンバージョンされたあとも食肉文化があったことの痕跡として後世に伝承されていきます。

講評
中村航

世界的に食料や環境の問題が出ているなかで、この問題の立て方は良いと思いますが、世界規模の問題を扱っていることに対して、数量のスタディが必要ではないでしょうか。かつて、MVRDVが提唱した「ピッグ・シティ」(2001年)では、オランダ国内で必要な飼育面積をもとに、床面積を検討されていました。中国でも豚を飼っている巨大な団地が実現されていますが、そうした現状を踏まえて、その先まで見据えたものであったらより良かったと思います。

原浩人

おもしろい着眼点だと思いました。この建築をメディアとして機能させたいのであれば、例えば東京都で消費される1週間分の牛や豚の数量を生産できる規模にするなどの工夫がほしかったですね。

高橋堅

プレゼンテーションでは、人々が見たくないタブーの存在に着目しているのではないかと感じました。ただし屠畜場は十分に認知されているものなので、もっと人々の無意識裡のタブーを取り上げ、それを建築として表現・検証していく方が良かったのではないかと思います。この案では既によく認知されているタブーの露悪的に表現してしまっているようにも思います。