LECTURE

Super Jury 2025 ショートレクチャー
田中 元子(株式会社グランドレベル代表取締役)
REPORT

私は2016年にグランドレベルという会社を設立しました。この会社は建物の1階に特化した設計、プロデュース、コンサルティングの会社です。1階は街づくりという言葉を合言葉にしていますが、1階といっても建物だけではなく道路や公園や広場など幅広く取り扱っています。

 

なぜ1階なのかというと、みなさんなんとなくぶらぶらと街を歩いているときにだいたい目の高さのあたりを見ていますよね。そういう人間の自然にうっかり見てしまうところにどんなものがあるかで、気持ちいい街に生きているか、楽しいところで暮らしているか、はたまたなんか寂しいところにいると感じるか影響を与えるところだと思っています。

 

設立当初は「1階屋って何?」みたいな感じでしたが、海外では目の高さにある街のデザインについて調査研究がかなり進んでいて、人がよりアクティブに気持ちよく生きられるデザインを街の中に置いていくアワードが設立されたり、研究成果がオープンソースとして公開されたりしていました。

UR都市機構×ゲールアーキテクツとの社会実験に参加。大手町の経団連ビルの足元でのフリーコーヒーの様子

会社をつくるきっかけになったのは、私の趣味である自前の屋台活動でした。この屋台はツバメアーキテクツの山道君が9ヶ月もかけて設計してくれたもので、組み立てて飾りつけて街に出すと、何屋さんですか?と声をかけられるんです。私は何も売ってないんですと言ってコーヒーを一杯手渡して一緒に飲む。「フリーコーヒー」と看板に書いて、街の人にコーヒーをあげて遊んでいます。

 

こういうちょっとした活動をすると、目の前が革命のように激変するんです。全く人の来なかったはずの裏通りが大賑わいになることも。もちろん人が来ないこともありますよ。でも、街の人に無視されても、私は誰かれ構わず声をかける権利がありますよね。この関係がすごく手作りの公共だなと感じていて「マイパブリック」と名付けさせてもらいました。

喫茶ランドリー(東京都墨田区/2018)

こういうことをしていると公共的なものを作るということに興味が湧きました。そこで、会社を設立して1番最初の仕事が古い建物の1階部分に対するプロジェクトで、「喫茶ランドリー」という私設公民館を作ることとなりました。喫茶店づくりなどは全く興味がなかったのですが、私設公民館を作るという実験をしたわけです。

 

公民館のように色々な人が色々な使い方をして物を置いていったりするので、誰かの実家みたいに時間と共に物が重なっていって徐々に雑然としてきます。でも私は、理想の公民館というのは、誰がターゲットでもなく、色々な人がいてもおかしくない場所だと思っています。ターゲティングしていないからこそ出会うはずのなかった人と人が偶然出会ったり。

のんびりお茶をしたり、ミシンやアイロンがけに来る人、喫茶ランドリーという名前の通り、洗濯をしに来る人など様々いらっしゃいます。

ココロゴコロ(沖縄県糸満市/2021)

このような喫茶店営業を東京で2件、神奈川で2件行っていて、本当に増やしたくないです。運営とか、ましてや飲食店なんて、やっても誰も得しないじゃないかというのが個人的な感想です。できるだけ運営負荷もかからないモデルは何かということを今も探していますし、物件なんか持たずにできることがたくさんあるはずです。

 

例えば、通りにベンチを置いたら。歩く人は歩くことだけに集中していますが、座っている人の中で、座ってることに集中してる人ってほとんどいないですよね。座りながらスマホ見たり、何かしらしている。そうやって、人の多様な行動が可視化されることも、多様性と呼ばれる風景だと私は考えています。

フクビ化学工業株式会社×株式会社グランドレベルによる屋外家具ブランドfandaline」(写真はHPより引用)

私があまりにもベンチを置いてくれと言い回っていたら、ベンチのブランドを持つことになり、ベンチを共同制作して販売もすることになりました。1階屋ではあるのですが、1階の表面をかっこいいカフェにするとか、表面だけグラフィックするということではなく、そこで「どう生きているか」が大事だと思っています。結果的に1階の企画ではカフェが結構多いのですが、様々なワークショップや一時的な社会実験に近いもの、恒常的な設計まで取り組んでいます。

田中 元子